今年のセ・リーグにおける台風の目は、熾烈な3位争いを続けるヤクルトと広島だ。中でもヤクルトは、なぜかセ・リーグ“2強”の巨人と中日に滅法強い。8月22日現在で、巨人には通算7勝6敗3分、中日には9勝6敗2分と勝ち越し。また神宮では、それぞれ3勝1敗1分、5勝2敗1分とカモにしている。この秘密について、ヤクルトの伊勢孝夫・総合コーチが、旧知のジャーナリストにこう明かしている。
「巨人は阿部、中日は谷繁のリードさえ徹底的に分析しておけば大丈夫。今の両チームに、捕手のサインに首を振る投手はいない」
スコアラーのレポートを元に、リードの特徴を分析。
「谷繁はナゴヤドームで戦う時と、神宮ではリードが変わる。狭い神宮では、長打を警戒するせいか、内角をついてこないから、打者は踏み込んでいけるし、狙いを絞りやすい。阿部はどんどんストライクを投げさせたいタイプ。初球から打ちにいけるし、その思い切りが好結果を生んでいる」
22日、神宮で今年初めて巨人に黒星を喫したが、相手捕手は阿部でなく加藤だった。確かにこれまでの勝利は、阿部のリードを読み切った結果だったようだ。打者の分析も万全。狭い神宮で強打の巨人打線を黙らせている背景には、各打者の傾向を完全に読み切っていることがある。
「巨人は、神宮では本塁打狙いでガンガン振ってくるから、ストライクはいらない。特に長野は打ちたがりだから、ストライクからボールになる球で十分。坂本も追い込まれれば何でも振るから、カウントを稼いでボールを放っておけばいい。阿部は相手投手の一番自信のある球を狙ってくるので、あえて苦手な球種で慎重に攻める。一発のある村田には、初球の入り方を間違えなければ大丈夫。
きわどいコースでストライクを取れといっても難しいが、ボールになる球でいいといえば思い切って投げられる。それを振ってくれるから勝機が生まれる。野球は強いチームばかりが勝つのではないよ」
※週刊ポスト2012年9月7日号