【著者に訊け】池井戸潤/著『ロスジェネの逆襲』(ダイヤモンド社/1575円)
人は生まれる時代を選べない。また隣の芝生は青いともいい、例えば酒の肴にもってこいなのが世代論だ。
「要は血液型と同じですよ。彼はA型だから細かいとか、バブル世代は能天気だとか、そう言われればそんな気もするし座が盛り上がるっていう、一種の遊びでしょ? 確かに育った環境やノリは世代によって違うだろうけど、基本的に好・不況の波は誰にでも均等に訪れ、特定の世代だけがオイシイ思いをして逃げ切れるはずもない。それを多少の差で括って妬んでみたり“不幸比べ”をすることがいかに無意味で滑稽か、オレバブの作者としては一度きちんと書いておかなくちゃと」(池井戸氏・以下「」内同)
『オレたちバブル入行組』に始まる池井戸潤氏(49)の人気シリーズ第3弾は、その名も『ロスジェネの逆襲』。東京セントラル証券営業企画部長〈半沢直樹〉は、もともと大手都銀・東京中央銀行からの出向組。実は頭取も一目置く逸材ながら、その〈正しいことを正しいといえる〉気質が災いして前作で子会社に飛ばされた。
彼は言う。〈人事が怖くてサラリーマンが務まるか〉――。そんな懲りない上司と、いわゆる就職氷河期世代(ロスジェネ世代)の部下〈森山〉たちの、世代を超えた共闘が始まる。
「もちろんバブル組vs氷河期組を対決させてもいいんですが、基本的に悪口って生産性がないじゃない? 結局、いつの時代もそうなんですよ。僕らは我が物顔した団塊の世代が鬱陶しかったし、ロスジェネ世代からすればその僕らが能力もないくせに楽勝で就職した〈既得権益の塊〉に映る。
でも一人一人は世代に関係なく優秀だったり無能だったりするわけで、少し仕事を覚えると上が全員バカに思えるのも時代を問わない(笑い)。だからこそ怨嗟や不満の類は早々に卒業して、〈自分の仕事にプライドを持てるかどうか〉という価値観を、各世代で共有していく話を書きました」
時は2004年。長引く証券不況に業績は低迷し、これといって好材料もない中、出向2か月目に入った半沢に不意の来客があった。来年創業15年を迎えるIT企業・電脳雑伎集団の50代の創業社長〈平山一正〉である。電脳とは10年前の上場時に東京セントラルが主幹事を務めた関係にあるが、担当の森山によれば現在の取引は付き合い程度。その電脳側が社長自ら足を運び、〈東京スパイラルを買収したい〉と打診してきたのだ。
東京スパイラルと言えば電脳と並ぶIT業界の雄だ。社長の〈瀬名洋介〉は30歳と若いが、事業規模は1000億を超え、特に同社の検索サイトに着目する平山は買収戦略のアドバイザーを半沢らに頼みたいという。
巨額の手数料が見込める大型案件に次長の〈諸田〉は乗り気だが、森山は複雑だ。実は瀬名は彼の高校の同級生で、父親が株に失敗して中退を余儀なくされた友の成功を知った時は我が事のように誇らしかった。
自身、苦労して銀行系証券子会社に入社したが、幅を利かせているのは社長から現場まで銀行出身者ばかり。自分たちプロパーをアシスタント程度にしか思わない銀行組の都合で働かされるのはうんざりだが、電脳の担当者として冷静に考えても総額1500億もの有利子負債を抱えることになるこの買収には反対だった。
ところがその担当まで外され、ますます腐る森山をよそにプロジェクトが動き出して2週間後、諸田らがまとめた買収案を手に平山を訪ねた半沢は言葉を失う。〈その件は、もう結構です〉〈こんなスピードでは、とてもじゃないがパートナーとして、信頼できません〉
しかも平山が鞍替えした先は東京中央銀行だといい、黒幕は半沢失脚を企む証券営業部長〈伊佐山〉らしい。半沢は内通者の存在を疑いつつも、親会社に手柄を横取りされて憤る部下に言った。〈やられたら、倍返しだ〉
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2012年9月7日号