第19回「小学館ノンフィクション大賞」が発表された。応募総数は昨年をわずかに下回ったものの、すでにプロとして実績を残している書き手の応募は増加傾向にあり、作品のレベルは高くなっている。優秀賞を受賞したのは、フリーカメラマン・八木澤高明氏の『マオキッズ 毛沢東の こどもたちを巡る旅』だ。
同書は、世界の歴史を大きく変えた毛沢東思想。その残滓を、グローバル化が進むいまの世界に追った報道カメラマンの11年に及ぶルポルタージュである。
山村から都市を包囲するという毛沢東のゲリラ戦術は、中国だけではなくアジア各国に大きな影響を及ぼした。そしてそれは最貧国といわれる国々でいまも続いている。
ネパールでは、1996年に武装闘争を開始したネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)が、山村を中心にじわじわと支持層を広げ、2008年に政権を奪取した。フィリピンでは、いまだ毛沢東思想を信じ、ジャングルに籠り戦い続けるゲリラたちの姿がある。
著者は、2001年、取材で訪れた西ネパールの山村で、マオイストの女性兵士と出会う。政府軍との戦闘の中で銃を取っていたマオイストの中心は、山村の若者たちだった。彼女もそのひとり。名前はノビナ。当時の年齢は18歳だった。その後、彼女は政府軍との激しい戦闘の中で、戦死する。著者は、女性兵士のあまりに呆気ない死を目の当たりにし、いまだ世界に存在する毛沢東思想を意識し、毛沢東が産み落としたこどもたちを巡る旅に出る。
ネパール、フィリピンのゲリラ取材に続き、毛沢東思想の影響を受けたポル・ポトによって200万人もの死者を出したカンボジア。また、毛沢東自体、観光地の土産物の中でしか見つけることが難しくなった中国。そして日本は、山岳アジトで同志を殺害するなどして自壊していった連合赤軍兵士のその後を追う。
自国だけでなく、多くの悲劇や喜劇をアジアの国々にもたらした革命闘争とは、どんなものだったのか。死後も世界を彷徨い続ける毛沢東の亡霊を、報道カメラマンの独自の目線が切り取っていく。
※週刊ポスト2012年9月7日号