いまや6割を超える核家族世帯が“点在”する日本人の暮らしぶりに異変が起きている。同居の煩わしさから敬遠されがちだった二世帯住宅が再び脚光を浴びているというのだ。
ファイナンシャルプランナーの豊田眞弓氏がその理由を解説する。
「長引く不景気による雇用環境の悪化などが影響し、平均年収は下がる一方です。また、2人以上世帯の『貯蓄ゼロ率』は30代で31.7%、40代でも29.1%います。都内に住めば収入の大部分が家賃やローン、食費で消えてしまい、貯金はまったくできません。そこで、親元で一緒に暮らせば『連結家計』に切り替えることができ、経済的にも余裕が生まれます」
では、二世帯住宅の連結家計にはどんなメリットがあるのか。
「親の持っている土地ならば建て替え費用だけで済みますし、共用型の二世帯住宅なら水道光熱費や固定電話代など世帯ごとの請求を折半できます。その他、ネットのプロバイダー料金やテレビの受信料、新聞・雑誌代なども年間で見ればバカにならない金額。それらを二世帯で分けると割安ですし、浮いたお金を少しでも子供の教育費に回すこともできます」(豊田氏)
最近では、千葉市をはじめ二世代、三世代家族の同居に必要な建て替え・増築にかかる費用を一部助成してくれる自治体もある。ひとつ屋根の下で家族が増えれば増えるほど、一世帯ごとのお金に対する不安は軽減できる。
経済的に支え合う大家族型のライフスタイルには、忘れてはならない存在がいる。首都圏の30~40代男性の実に42%が該当すると言われる「LITS」(未婚で親と同居している30代、40代の略称)だ。旭化成ホームズでは、従来の二世帯住宅プランに加え、単身の兄弟姉妹の部屋もつくって同居してもらおうと、「2.5世帯住宅」を発売している。
「LITS層は結婚や住居の購入など、大きな経済的支出を伴う人生の決断が待ち受けています。だから、高い家賃を払って都内で一人暮らしをするよりも、かじれるすねがあるならば親元に身を寄せ、決断の日が来るまで食事や洗濯など親に甘えながら暮らしたいと考えている人が多いのです。それは決して悪いことではありません。家に入れる固定のお金もしっかり支出したうえで、毎月、収入の3割ずつを貯金していけば、将来設計も立てやすくなります」(豊田氏)
また、未来の支出を考えたとき、親元にいるか外で暮らすかで大きく変わってしまうのが税金である。
「相続税が発生した際、相続した土地について一定の条件をクリアすれば、評価額の最大80%を減額する特例(小規模宅地の特例)があるのですが、同居していない子供には原則として適用にならないため、兄弟姉妹で相続税の支払いに差が出てしまうことも考えられます」(税理士の落合孝裕氏)
「節約」「節税」を目的に多世帯住宅の暮らしを決断するのは本末転倒だが、充実したライフプランを立てるためには、お金がシビアについて回るのが現実だ。
「消費税が10%に増えれば家計の支出は当然増えますし、大幅な社会保険料のアップも見込まれます。家計がどんどん厳しくなる中、自分と家族、そして両親や兄弟姉妹のことも考えながら協力してライフプランを立てることは意義がありますし、その中で住まいをどうするかについて考える機会は、これからますます増えていくと思います」(豊田氏)