みうらじゅん氏は、1958年京都生まれ。イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャン、ラジオDJなど幅広いジャンルで活躍。1997年「マイ ブーム」で流行語大賞受賞。仏教への造詣が深く、『見仏記』『マイ仏教』などの著書もある同氏が、故人のコレクションの行方について解説する。
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故人が趣味で集めていた大事なコレクション。自分が死んだあと、遺族や関係者はどのようにあつかうのか。この大問題を生前から考えたことのある人間はいただろうか?
私もボブ・ディランのレコードに関しては、わざわざレコード屋の多い西新宿に仕事場を借りるほど熱を入れ、海賊版も含め、ありとあらゆるバージョンを買い漁った。もしその頃の自分なら、そんな大問題を突きつけられたら、不安で死ぬに死ねなかっただろう。
だがある日、日本コロムビア盤というレアなディランのレコードがドサッとレコード屋に売られていた。「きっと持ち主が亡くなったかで、出てきたんですね」。そうレコード店の店長がいった時、「これが万物流転だ!」と思った。
結局、生きてるうちに大事にしているモノも死ねばどこかに流れていく。ただそれだけのこと。物に執着し諦め切れない。これをボンノウといわずして何という。しかし、コレクターになればなるほど逆に世の中の真理が見えてくるものだ。今捨てろとは思わない。現世のことは現世で終わると諦めればいいだけのこと。
レコードだろうが何だろうが、死後はきれいサッパリ捨てようが、売ってしまおうが、一向にかまわない!
1979年12月2日に亡くなった評論家の植草甚一氏の遺した4000枚近いジャズのレコードは、なんとタモリさんに引き取られた。
タモリさんと植草氏に個人的面識はなかったが、遺品整理をまかされたのが、両人をよく知る放送作家の高平哲郎氏。安く売ってバラバラにしてしまうのも忍びないし、遺族のためにも、と、「植草さんのコレクションだから、間違いないから買わないか?」とタモリさんに連絡。タモリさんもそのコレクションの内容を詳しく聞かずに、納得して買い取ったといわれている。
しかし、こんな幸運な運命を辿るコレクションはきわめて珍しい。ほとんどのコレクションは、故人の思いとは裏腹に悲劇的末路をたどっていく……。
※週刊ポスト2012年9月7日号