歌舞伎俳優の市川染五郎(39才)が8月27日、国立劇場で行われた父・松本幸四郎(70才)の古希を記念した舞踊公演の最中に、舞台のセリから3m下の奈落に落下。救急車で都内の病院に搬送された。右側頭部を打つ脳挫傷とみられ、意識はあるものの、体を動かすことができない状態だった。
当日の染五郎は別件を終えてすぐに公演という慌ただしい一日だった。
「午後1時半ぐらいから公演直前まで、新橋演舞場の9月公演の稽古をしていたんです。この公演では菅原伝授手習鑑『寺子屋』の中の松王丸を演じる予定だったんですが…」(歌舞伎関係者)
この松王丸役は、通例でいえば座頭格が演じる大役だ。
「誰もが叔父である中村吉右衛門さん(65才)が演じると思っていましたから、大抜擢でした。それだけに、染五郎さんは大変なプレッシャーを感じていたようです」(前出・歌舞伎関係者)
大役を果たすために昼間は厳しい稽古、そして夜は別の公演だが、歌舞伎関係者からは、この“掛け持ち”に驚きの声が上がっている。
「あの稽古後に本番の舞台なんて信じられません。そんな無茶なスケジュールだったんですね」(別の歌舞伎関係者)
しかし、染五郎には“掛け持ち”しなければならない理由があった…。吉右衛門には4人の娘がいるが、男の子はひとりもおらず、彼の役は染五郎が受け継がなくてはならないのだ。
「吉右衛門さんは、“自分の芸はすべて甥っ子である染五郎に伝授しよう”という覚悟で、松王丸も、自身が直接教えていました」(別の歌舞伎関係者)
偉大な叔父からの稽古、嬉しくないわけはない。だが、染五郎の父はいわずと知れた幸四郎。しかも、稽古の後の公演は父の古希を祝う公演だけに、どちらも断るなんてことはできなかったのだろう。
「幸四郎さんと吉右衛門さんは、めったに一緒の舞台に立つことがないほど兄弟不仲といわれています。そんな複雑な事情も染五郎さんを悩ませていたんでしょうね」(前出・歌舞伎関係者)
※女性セブン2012年9月13日号