8月21日に開かれた静岡県防災・原子力学術会議の地震・火山対策分科会。静岡大学防災総合センターの小山真人教授は、「地震やマグマの突き上げで富士山が『山体崩壊』すれば最大約40万人が被災する」と報告した。
山体崩壊とは噴火や地震などにより山の3分の1から4分の1が崩れる現象。崩れた山の岩石や土壌は時速100kmの猛スピードで斜面を 下る『岩屑なだれ』となり、周辺地域に甚大な被害をもたらす。
40万人が被災ともなれば、過去に例を見ない大規模な災害となってしまうわけだが、これまで富士山の山体崩壊については、あまり指摘されてこなかった。しかし、武蔵野学院大学の島村英紀特任教授(地震学)「富士山は大規模な山体崩壊が非常に起きやすい」と話す。
「富士山は火山灰や溶岩がバームクーヘンのように幾重にも連なる成層火山で、もともと構造が不安定。さらに“安息角”と呼ばれる絶妙の角度で頂上から斜面が裾野に広がります。このため、一度山が崩れると発生する岩屑なだれが麓まで一気に到達し、より深刻なダメージを与えます」(島村教授)
実際、富士山ではこれまで少なくとも4回、山体崩壊が起きている。最後は約2900年前に発生した「御殿場岩屑なだれ」で、御殿場方面に崩れた土砂が富士山東側の麓一帯を覆い、酒匂川に沿って小田原まで、黄瀬川に沿って沼津まで土砂が到達した。
今回の被災者数の試算は、この「御殿場岩屑なだれ」と同様の山体崩壊が起きると仮定したものだ。富士山の東側で山体崩壊が起きて岩屑なだれが生じると、御殿場市と小山町を丸ごとのみ込んでしまう。また、小山教授は富士山が北東に崩れると富士吉田市や桂川、相模川沿いに約38万人、南西に崩れると潤井川、芝川沿いに約15万人が被災するとも試算している。
被害は周辺にとどまらない。内閣府は富士山から約100km離れた東京でも2~10cmの火山灰が降り積もると想定。マグマが冷えて固まった微粒子である火山灰は、体にはもちろんライフラインにも甚大な影響を及ぼす。防災システム研究所所長の山村武彦さんが“最悪のシナリオ”を明かす。
「富士山の麓は東海道新幹線や東名高速道路が行き交う日本の大動脈であり、分断されると日本経済に与える損失は計り知れません。降灰の影響で飛行機や電車の運航がストップするでしょうし、電線に付着すると停電も起こりうる。首都圏が大混乱しますよ」
※女性セブン2012年9月13日号