グラビア

義足のスプリンター・中西麻耶 鍛え抜かれたセミヌード公開

パラリンピック出場の中西麻耶セミヌード

「ヌードになったことに後悔はない。むしろ『中西麻耶』と向き合える機会になってよかった。自分を信じて、結果を出したい」――今年3月に活動資金を捻出するべく、鍛え抜かれた体と美しい素顔を披露、セミヌードカレンダーとして発売した中西麻耶(27)。彼女が今、心から願うことは「ロンドンで最高の自分を出す」ということ。

 8月29日に始まったロンドン・パラリンピックで、片足義足の陸上選手として、9月1日の100メートル予選を皮切りに200メートルと走り幅跳びに出場する。

 初出場の2008年北京大会では競技歴わずか1年で、100メートル6位、200メートル4位に入賞。周囲は祝福の声を送ったが、中西の思いは違っていた。「悔しい。恥ずかしくて日本に帰れない」。

 幼い頃から運動センス抜群で、中学から始めたソフトテニスで頭角を現わし、高校総体や国体にも出場。2004年の高校卒業後も2008年の大分国体を目指して競技を続け、「肉体労働ならトレーニングになる」と塗装工となった。

 ところが2006年9月、悲劇が襲う。現場で作業中、重さ5トンの鉄骨が崩れ、彼女の右脚を押しつぶしたのだ。目標だった大分国体の県代表を決める重要な大会の2日前のことだった。

「切断か、接合して様子をみるか」という救急病院の医師の診断に対し、「先生、脚、切ってください」。両親は猛反対したが、中西に迷いはなかった。「切って義足にしたほうが早く復帰できる」、そう思ったからだ。

 必死のリハビリにより、半年ほどでプレーができるまでになった。だが、義足でのプレーは輝いていた頃の自分とはほど遠い。「障害者なんだから、頑張らなくていい」という周囲の言葉にも傷ついた。

 脚を失い、生きがいを失い、自分自身さえも失ってしまいそうだった中西。彼女を救ったのが、「そのままの麻耶ちゃんでいいんだよ」という言葉。中西の義足を手がけることになる義肢装具士・臼井二美男氏のひと言だった。

「そうだ。義足になっても、『中西麻耶』という人間は変わっていない」

 臼井の勧めで陸上競技を始めると、「風を切って走るのって、気持ちいい」と、本来の明るさと前向きさが戻った。一度、目標を定めると無我夢中に突っ走るのは真骨頂。わずか半年で100メートルと200メートルの日本記録を更新した。

 世界の壁を感じた北京大会後は、アメリカのオリンピック・トレーニングセンターの門を叩き、選抜試験を経て、五輪選手らと肩を並べての練習を続けてきた。今年もほとんどの時間をアメリカでの練習や国際大会への遠征で費やした。

「パラリンピックの短距離種目で入賞、プロ活動、海外留学……。私は、義足の日本女子選手のパイオニアとなり、挫折も逆境も乗り越えてきました。でもそれは、自分のためだけでなく、後輩たちの勇気となり、目標にもなりたいと思ったから。あと一つ、世界記録が残せたら、最高なんですけど」

 こう笑みを浮かべた中西。己と闘い続けてきた美しきアスリートが、ロンドンのスタートラインに立つ。

【プロフィール】
なかにし・まや●1985年6月3日生まれ。大分県出身。2006年、労災事故で右足膝下を切断後、義足の陸上選手として2008年北京パラリンピックに出場、100メートル6位、200メートル4位入賞。2009年より米国に練習拠点を移す。現在、片足切断のクラス3種目(100メートル/13秒84、200メートル/28秒52、走り幅跳び/4メートル96)の日本記録保持者。『中西麻耶カレンダー2012-2013』はAmazonで発売中。

撮影■越智貴雄(www.ochitakao.com)
文■星野恭子

※週刊ポスト2012年9月7日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《広末涼子が釈放》「グシャグシャジープの持ち主」だった“自称マネージャー”の意向は? 「処罰は望んでいなんじゃないか」との指摘も 「骨折して重傷」の現在
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン
19年ぶりに春のセンバツを優勝した横浜高校
【スーパー中学生たちの「スカウト合戦」最前線】今春センバツを制した横浜と出場を逃した大阪桐蔭の差はどこにあったのか
週刊ポスト
「複数の刺し傷があった」被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバムと、手柄さんが見つかった自宅マンション
「ダンスをやっていて活発な人気者」「男の子にも好かれていたんじゃないかな」手柄玲奈さん(15)刺殺で同級生が涙の証言【さいたま市・女子高生刺殺】
NEWSポストセブン
NHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」で初の朝ドラ出演を果たしたソニン(時事通信フォト)
《朝ドラ初出演のソニン(42)》「毎日涙と鼻血が…」裸エプロンCDジャケットと陵辱される女子高生役を経て再ブレイクを果たした“並々ならぬプロ意識”と“ハチキン根性”
NEWSポストセブン
山口組も大谷のプレーに関心を寄せているようだ(司組長の写真は時事通信)
〈山口組が大谷翔平を「日本人の誇り」と称賛〉機関紙で見せた司忍組長の「銀色着物姿」 83歳のお祝いに届いた大量の胡蝶蘭
NEWSポストセブン
20年ぶりの万博で”桜”のリンクコーデを披露された天皇皇后両陛下(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA) 
皇后雅子さまが大阪・関西万博の開幕日にご登場 20年ぶりの万博で見せられた晴れやかな笑顔と”桜”のリンクコーデ
NEWSポストセブン
朝ドラ『あんぱん』に出演中の竹野内豊
【朝ドラ『あんぱん』でも好演】時代に合わせてアップデートする竹野内豊、癒しと信頼を感じさせ、好感度も信頼度もバツグン
女性セブン
中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
《実兄が夜空の下で独白》騒動後に中居正広氏が送った“2言だけのメール文面”と、性暴力が認定された弟への“揺るぎない信頼”「趣味が合うんだよね、ヤンキーに憧れた世代だから」
NEWSポストセブン
高校時代の広末涼子。歌手デビューした年に紅白出場(1997年撮影)
《事故直前にヒロスエでーす》広末涼子さんに見られた“奇行”にフィフィが感じる「当時の“芸能界”という異常な環境」「世間から要請されたプレッシャー」
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下は秋篠宮ご夫妻とともに会場内を視察された(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA) 
《藤原紀香が出迎え》皇后雅子さま、大阪・関西万博をご視察 “アクティブ”イメージのブルーグレーのパンツススーツ姿 
NEWSポストセブン
2024年末に第一子妊娠を発表した真美子さんと大谷
《大谷翔平の遠征中に…》目撃された真美子さん「ゆったり服」「愛犬とポルシェでお出かけ」近況 有力視される産院の「超豪華サービス」
NEWSポストセブン