秋のビールにはコクと香りが求められる
まだ酷暑は続くが、各社から「秋ビール」が出そろった。キレの「夏ビール」と違い、「秋ビール」はコクと香りがポイントだ。リラックス効果も高い「秋ビール」の実力を、食と料理文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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秋の「ビール」が百花繚乱である。1991年に発売された最古参のキリン「秋味」をはじめ、サッポロの「日本の彩(いろどり)PREMIUM 秋の幸」(コンビニ限定)、さらには“第三のビール”(リキュール)も、サントリーが「旨味たっぷり 秋楽」、アサヒも「秋宵(あきよい)」を発売し、国内ビール大手4社から「秋」が出そろった。
共通するのは「コク」と「香り」である。キリンやアサヒの独自調査によれば、秋のビールには「コク」「香り」が求められる傾向が強いという。気温と湿度が高い夏にはキレ味の高いビールが好まれる。一方、涼しくなってくる「実りの秋」には、食中酒としての「味わい」「香り」がより求められるというのだ。
各メーカーのプレスリリース等から「秋」商品の特徴を抜粋する。
キリン「秋味」(ビール)。通常ビールの1.3本分の麦芽を使用し、アルコール度数は少し高めの6%。「味覚の秋にふさわしい、しっかりとしたコクと飲みごたえのビール」。
サッポロ「日本の彩(いろどり)PREMIUM 秋の幸」(ビール)。米は北海道産米100%、麦芽とホップも国産品。道産の生小麦使用でやわらかで豊潤な味わいを実現。アルコール分5%。
サントリー「旨味たっぷり 秋楽」(リキュール)。全麦芽の20%以上を焙煎したロースト麦芽を使用し、「上質な苦味、深みのあるコク、香ばしく厚みのある香り」。アルコール度数6%。
アサヒ「秋宵(あきよい)」(リキュール)。発芽させてからローストした「クリスタル麦芽」を使用。「芳醇なコクと苦味・後味のバランスがとれたリッチな味わい」。アルコール度数6%。
言葉は違えど、コク、飲みごたえ、苦味、芳醇(豊潤)、リッチなどのキーワードが抽出されている。四季にメリハリのある日本では、季節ごとに求められる味わいが変わるというわけだ。
例えば、沖縄のオリオンビールは1959年の発売当初、ドイツの技術を土台に味を開発した。発売当初、ドイツの味は高温多湿な沖縄では受け入れられずに、アメリカ風の軽い味わいへと方向転換を余儀なくされた。いっぽう涼しさを増してくる日本、とりわけ本州以北秋には、コクが豊かで香り高いビールが合うというわけだ。
フード系シンクタンクの「味香り戦略研究所」が大手ビール4社の主力商品を対象に実施した「『ビールの香り』についての官能検査」によれば「ビールの香り」にはリラックス効果が認められた。脳のα波の測定結果では、香りの豊かさに定評のある「ザ・プレミアム・モルツ」(サントリー)がとりわけ高い数値を示したという。
α波が豊富に出現する状態というのは、心理的にはリラックスした状態をあらわす。秋の夜長を心穏やかに過ごすには、香り高い「秋のビール」は最高の友なのかもしれない。もっともデータに頼らずとも、ビール党にとってビールは1年を通じて最高の友である。