豊かな自然に恵まれた日本では、海の幸、山の幸を凝らした世界一の食文化が育まれてきた。寿司、和牛、日本米など、海外で高く評価される料理・食材は多い。しかし、その日本の食卓が危機に瀕している。鮮魚が食べられなくなり、味噌や豆腐が食卓から消える日がやってくるかもしれない。その背後には、アメリカの政治的意図や中国の拡張、そして“内なる敵”の存在がある。
そこでは、輸入に頼っていない「米」も問題を抱えている。
「ササニシキ」と言えばコシヒカリと並ぶブランド米と思うかもしれない。しかし、ササニシキは今ほとんど市場から姿を消してしまった。
ササニシキの一大産地だった宮城県の作付面積を追うと、1990年の8万1755haをピークに減少の一途を辿り、昨年は5588haにまで落ち込んだ。ライバルだったコシヒカリの年間生産量は300万tに及ぶが、今やササニシキは宮城県内で3万6100t(2009年度)が生産されるのみ。コシヒカリの約100分の1の数字だ(農水省の統計では上位15品種の生産量が公開されるがササニシキはランク外で全国生産量は不明)。
宮城県の担当者の説明。
「ササニシキは、平成5年(1993年)の大冷害をきっかけに、生産量が激減しました。現在、宮城県で生産量トップの『ひとめぼれ』は平成3年(1991年)から作られ始め、冷害で被害が少なかったことからその翌年にはササニシキの作付面積を一気に逆転しました」(農林水産部農産園芸環境課)
一方、1980年代後半以降にコシヒカリのシェアが爆発的に増えた。理由として政府米価の引き下げが始まり米価水準が低下する中、人気があり高価格で販売できるコシヒカリの生産が急増したのだという。そんなコシヒカリ独り勝ちの影響を受けるのが寿司店だ。
「コシヒカリのように粘り気があって甘みもある米は、寿司のシャリに使う場合、米が主張し過ぎる。それに比べてササニシキはあっさりした口当たりで、粘り気も強くない。寿司ネタの風味を生かすことができるんです。また、粘り気の問題とも関係して、ササニシキは冷めてもおいしさが失われにくい。その点も、寿司に向いていると言える」(JAみやぎ登米米穀販売課)
ササニシキを入手できない寿司店では粘り気のない古米を使うなどの工夫がされているケースもある。冷害対策とコシヒカリ信仰が、思わぬところで食文化に危機をもたらしているのだ。
※SAPIO2012年9月19日号