〈近年の日本は軍事小国と見られているが、中国は日本と戦っても勝利が保証されるわけではない。(中略)日本軍の司令官が、人的資源、装備、地政学的優位さえ活用すれば、日本は中国との海戦に勝利するだろう〉(原文は英語、編集部訳。以下同)
そんな衝撃的な内容の論文が米国の外交誌『フォーリン・ポリシー』(以下、FP誌)の巻頭特集として発表された。著者はアメリカ海軍大学准教授のジェームズ・R・ホルムズ氏である。
産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・論説委員の古森義久氏が解説する。
「FP誌はアメリカで極めて権威があり、かつ知名度の高い外交誌です。著者はかつて戦艦ヴィスコンシンに乗っていた元海軍将校で、実務と学究の両方に通じた第一線の研究者。彼が所属するアメリカ海軍大学は中国の海洋戦略の研究に関してはアメリカでも随一と評価されており、この論文の内容は非常に信頼度が高いといえます」
ホルムズ氏は、今回の論文の主旨をこう説明する。
「米国が日本側について参戦することを想定していないなど、この論文はあくまで思考上の実験といえますが、私がこの論文で強調したかったことは、中国海軍にとって日本の海上自衛隊は決してたやすい相手ではないということです」
同レポートは、〈2010年に中国人漁師が、尖閣諸島付近で日本の海上保安庁の船舶に漁船を体当たりさせて逮捕される事件が発生したが、その当時は日中両国の軍事衝突は考えられなかった。しかし現在は、それが現実味をおびている〉という。
その理由として、人民解放軍のタカ派幹部が尖閣諸島に100隻の中国船舶を派遣するよう提案したことなどを挙げている。軍事評論家の潮匡人氏も、尖閣上陸事件を境にして、「尖閣沖海戦」の可能性が生じたと指摘する。
「武力衝突で敗北した場合の政治責任を考えれば、中国の指導者は容易に戦争を決断できない。しかし、熱狂した中国の国民が200隻、300隻と“大漁船団”で尖閣諸島を目指せば、日本側も自衛隊の護衛艦を出さざるを得ない。仮に海上で小競り合いが起きて中国側の人間に血が流れるようなことになり、これを放置すれば共産党政権はもたない。当然、戦争という一線を超えることを考えるはずです」
中国国民はかなり前のめりになっている。中国の政府系国際情報紙『環球時報』による世論調査では、実に国民の90.8%が尖閣諸島問題への「軍事的手段の採用」に賛成しているとの結果が出た。
折しも、8月27日には丹羽宇一郎・駐中国大使の車が襲われる事件も起きた。すでに日中関係は戦争の“一歩手前”ともいえる緊迫した状況だということが、このレポートの前提なのである。
※週刊ポスト2012年9月14日号