視聴率1%を仮に100万人とすると、この10年で約1000万人がテレビの前から去ったことになる。1990年代、視聴率20%超えが当たり前だったドラマは、今や視聴率10%を超えれば“合格”といわれる。
『プロジェクトX 挑戦者たち』を手がけた元NHKエグゼクティブプロデューサーで作家の今井彰さんは、「今のドラマはまったく見る気がしない」としたうえで、その理由をこう話す。
「表面的な模倣ばかりで、今の時代の人たちの共感を得るリアリティーが描き切れていないんです。リアリティーを追求するには調べるのにも時間がかかるし、現実感のあるものとして提示するための努力と工夫も必要。そうしたドラマ作りの基礎を怠っている。
最近ヒットしたドラマでは『JIN-仁-』(TBS系2009年と2011年)の設定は奇想天外だけれども、それぞれの治療行為や心理描写はすごくリアリティーがあり、緊迫感があった。だから、みんな面白いと思って見た。古くは『白い巨塔』(テレビ朝日系・1967年、フジテレビ系・1978年)もそう。あれは医療ドラマではなく、サラリーマンたちが自分の会社の人間関係に重ねて見ていました」
逆に失敗した例としては、大コケした『家族のうた』(フジテレビ系)があげられる。子役ブームや、震災以降のホームドラマブームを意識したテーマ設定だったが、それに中身が伴わなかったようだ。
なぜ、これほどまでにドラマの質は低下したのか。
前出・今井さんは2000年代以降、ドラマ作りの現場がおかしくなっていると指摘する。
「昔のドラマは“いい脚本ありき”でしたが、今は逆。視聴率を稼ぐために、とりあえず人気俳優を押さえることが先行し、キャスティングありきで決めていく。脚本家がいいものを書いても、タレントや事務所、広告会社、スポンサーの意向で話が全部変わってきてしまう。例えば、話の流れ上、セックスのシーンを描くのが当然なのに、“ウチの女優はそんなのやりません”ですっ飛ばされては面白いドラマができるはずがありません」
数々の人気ドラマを手がけてきた40代の女性脚本家が匿名を条件にこう明かす。
「人気俳優は1年半前からスケジュールを押さえているんです。脚本も決まらないうちからキャストを固める。プロデューサーはその俳優のイメージに合わせて都合よく脚本を書いてくれることを望むから、脚本の質も落ちる」
固定ファンのいる俳優やタレントを起用すれば、たとえストーリーに少々難があっても一定の数字を稼げる…テレビ局側としては“保険”をかけるつもりなのだろう。だが、それが脚本家の自由な発想を縛ってしまっているというのだ。
さらにキャストを先に決めるのには、CMスポンサーの影響も大きいという。あるテレビ局関係者が声をひそめる。
「スポンサーがついている俳優やタレントを使えば、CMが決まりやすい。とくに2008年のリーマンショックの後は各企業が広告費を削減しているため、テレビ局も広告収入が大幅に減り、赤字になっている。制作費もあおりを受けて、昔は1話1億円なんて言われていたのが今はその半額程度。正直、ドラマの内容とか視聴率より先に、なんとかスポンサーを決めたい。本音を言えば、“CMさえ入ればオッケー”みたいなところがある」
ドラマの合間に入るCMに、ドラマで主人公を演じる俳優が登場することが増えたのも、そうした事情ゆえのようだ。
※女性セブン2012年9月13日号