年間18億9500万食、1世帯当たりの出費1745円――。
これは袋入り即席麺の市場規模を表した数字だが、震災後の内食傾向も手伝って需要は伸び続けている。
袋麺の売れ筋キーワードは、ラーメン専門店にも負けない“生麺食感”だ。
「袋麺というと油で揚げた乾麺が主流でしたが、昨年11月に東洋水産が生麺をそのまま乾燥させることで麺になめらかさとコシを出した『マルちゃん正麺』を発売したところ爆発的ヒット。わずか半年で1億食の出荷を達成したことから、他社も続々と生麺タイプの即席麺を急ピッチで開発するようになりました」(食品業界紙記者)
一時はあまりの売れ行きで品薄が続いていた「マルちゃん正麺」。現在は群馬県にある工場のライン増設で、生産能力を従来の2倍(日産60万食)に高めたという。
だが、東洋水産の「独走」に待ったをかけるべく、8月27日に販売開始したのが、日清食品「ラ王」の袋麺シリーズ。同社の担当者が「袋麺の最高傑作ができた」と並々ならぬ自信を見せる商品だけに、「マルちゃん正麺」のシェア食いも十分にあり得る。
「日清はもともとカップ麺の『ラ王』で生麺食感を訴求してきた実績があるだけに、ブランド力は絶大です。さらに、袋麺では麺の内層と外層で原料の配合比率を変えるなど、カップ麺の技術を応用させてモチモチした食感を出しています」(前出の記者)
「ラ王」も初年度100億円の売り上げを目標に、静岡県内の工場に新ラインを導入する予定だ。袋麺の元祖である「チキンラーメン」に匹敵する中心ブランドに育て上げると、日清食品は強気の姿勢を崩さない。
さらに、「マルちゃん正麺VSラ王」の2強に割って入ろうとしているのが、9月10日より発売予定のサンヨー食品の看板袋麺「サッポロ一番」の新商品、その名も「麺の力」である。麺の口当たりや喉ごしのなめらかさを売りに、やはり年商100億円を目指して工場の専用ラインを導入済みだという。
これで、今秋から“三つ巴の争い”は混沌としてきそうだが、市場全体の盛り上がりとともに、本格志向の袋麺がラーメン店など外食産業を脅かしてしまう可能性もあるのだろうか。
ラーメンコンサルタントの渡辺樹庵氏はいう。
「たしかに生麺に近い食感に仕上げる即席ラーメンの製法はここ数年で目覚ましく進化しましたが、どんなにおいしい麺でもドンブリの中で吸収するスープがイマイチなら、食べ進めたいとは思いません。そういう意味では、スープと麺のからみ具合を考えた味の追求と改良を繰り返さない限り、まだまだラーメン店の顧客は奪えないレベルだと思います」