オリンピックで領土問題をアピールし世界中から批難を浴びた韓国サッカー選手。自分たちだけで騒いで勝手に興奮し、よその国からはひんしゅくを買うという、いつもの“自家発電”だと産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏は指摘する。しかし韓国国内では批判の声がほとんど聞かれなかったのはなぜか、黒田氏が解説する。
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五輪サッカー事件直前の李明博大統領の“竹島上陸”も、人気挽回のための国内向け愛国パフォーマンスという“自家発電”だったが、もう少しサッカー事件の方を紹介しておく。
長年のコリアン・ウオッチャーとして残念なのは、国際舞台でのあの田舎臭い愛国パフォーマンスより、そのことをたしなめる声が韓国国内でほとんどなかったことだ。
国を挙げて世界化や国際化が叫ばれ続け、世界の有力経済国になったと誇り、「世界に広がる韓流ブーム」が毎日のように報じられ、今や「世界が注目する国」と自画自賛していながら、国際的マナーの観点から事件を見る客観的姿勢がまったくないのだ。
これは驚きであり、こちらの方がニュースだろう。「たしなめる」あるいは自己批判、反省はおろか、逆にマスコミやネットでは「あれのどこが悪い!」「ソウルは韓国の首都と、当たり前のことを言ったようなもので政治的行動ではない!」などとみんな居直っているのだ。
しかも、韓国選手が問題にされた腹いせだろうか、日本の女子体操選手のユニフォームのデザインが「日本軍国主義の象徴である旭日昇天旗に似ている。なぜあれを問題にしないのか!」とマスコミは大真面目に伝えている。
有力紙の中央日報などは現地でロゲIOC会長をインタビューし、わざわざ「日本のユニフォームも違反ではないのか?」と質問し「そんな話は初耳だが」と一笑に付されている。ちなみに「旭日」とは朝日のことで、日本の海上自衛隊は今も軍艦旗に使っている。あえて韓国マスコミに助言してあげれば、韓国マスコミが「日本の良心」として大好きな朝日新聞の社旗がそれなんですがね。
お笑いというか、いや深刻というべきエピソードはまだある。今回の一件で韓国のサッカー協会は日本サッカー協会に「申し訳ない、今後気をつけたい」といった趣旨のメッセージを送った。協会は世界を見ているから国際的マナーがある。
ところがこのメッセージが屈辱的だといって世論の袋叩きに遭い、何と元慰安婦の老女まで協会に抗議にきたというのだ。元慰安婦は今や“愛国者”の代表なのだ。
IOCには今回、ぜひ処分してもらわねば困る。でないとまたやりますから。李明博大統領は任期中最後となった「8.15記念演説」でまだ慰安婦問題にこだわっていた。格調が無いことはなはだしい。筆者を含め日本では当初、評価と期待の高かった大統領だったが、これだけメッキがはげるのは珍しい。
※SAPIO2012年9月19日号