持っている会社は30社、従業員は5400人、自宅は25軒で、東京ドーム170個分の土地を持つ日本人がバリ島にいる。地元で「アニキ」と呼ばれる丸尾孝俊氏(46歳)である。極貧の幼少期を送り、中卒で就職して以来、あらゆる仕事を渡り歩き、不動産ディベロッパーとしてバリで大成功した人物だ。同氏は『大富豪アニキの教え』(ダイヤモンド社)という著書がある。
そんな人が本当にいるのだろうかと疑念を抱く真正デフレ世代の本誌新人記者(♀)が、アニキの正体を暴くべく、バリへと飛んだ。ロブスターてんこ盛りの豪華ディナーの後に 案内されたのは、コテージがいくつも並ぶ、プライベートヴィラ。普段、六畳一間のワンルームに暮らす自分がみじめに思えるほどの広い部屋に落ち着かず、結局、ベッドの角に小さくなって就寝。
朝起きると、すかさずお手伝いさんが朝食を用意してくれる。こちらも、インドネシアの代表料理・ミーゴレン。もちろん、これだけではない。フルーツ盛り合わせに、コーヒーにフレッシュジュースと、朝からお腹いっぱいに。荷物をまとめ、アニキ邸に向かおうとすると、すかさず別のお手伝いさんが現われ、「送っていきます」と車に乗せられた。いや、歩いて10分なんですけど……お姫様みたいだ。
朝8時まで、“お客さん”と話し込んでいたというアニキの準備が整うまで、庭で一休み。アニキTシャツに身を包んだお手伝いの女の子たちが、これまたコーヒーにジュースともてなしの嵐。庭を見ると、馬がいる。その近くでは孔雀が佇む。水場には3メートルのワニが。動物園か!
アニキとこの日訪れたのは、ある山の中。切り開かれた山は、神々が宿る島といわれるバリに相応しい、神秘的な景色だ。その絶景を前に、アニキがいった。
「ここにな、世界遺産作るんや」
せ、世界遺産? 世界遺産って勝手に作れないし、だいたいこの土地って……?
「今見えてんの、全部おれの土地や。すごいやろ~」
アニキはこの土地に、世界の民族博物館を作り、世界遺産登録を果たし、たくさんの観光客を呼びたいのだという。来月には、山の斜面にリフトを竣工予定で、“アニキ世界遺産”は、着々と準備が整っていた。
アニキツアーを終え、家に戻ると、またまたすかさず飲み物が出てくる。そして、海老、蟹、という超豪華な夕食を頂き、後ろ髪を引かれつつ、あっという間のアニキ邸滞在が終了。クラクラするような夢のような日々に、私が持っていたアニキへの疑念は木っ端微塵に吹っ飛んでいた。
帰国後、自宅に帰ると、やけに体が壁にぶつかる。たった1泊で、広い家に慣れてしまったのか。もっと豪華な家に住みたい……。私は再びアニキの本を読み返すのだった。
※週刊ポスト2012年9月14日号