尖閣諸島の領有権をめぐって、中国各地で相次いでいる「反日デモ」。日本のテレビニュースや新聞報道では、中国全土が反日で燃え上がっているように見える。もし現地で日本人であることがバレたら、一体どんな目にあうか。考えただけでもオソロシイ。本誌記者は決死の覚悟で、現地のデモに潜入取材を試みた。
8月26日、日曜日。ネット上のデモ予告を見て、記者は上海から列車で3時間ほどの浙江省の100万人都市・諸曁に向かった。街角に立つ警官の数がやたらと多く、緊張感が高まる。
スタート予定の午前9時。恐る恐る目についた群衆に近づくと、10~20代の若者を中心に100人ほどが集まっていた。
しかし、ピリピリした雰囲気はまるでない。友人と並んで写真を撮影していた10代後半と思しき男性に声をかけた。
――どうしてデモに参加したの?
「いま高校3年生なんだ。高校生活最後の夏休みだから、友達と一緒に写真をたくさん撮って、思い出を作りたいな」
(あ然)……。
もしや間違って修学旅行の一団に混じってしまったのではないかとキョロキョロしていると、どこからともなく中国国旗を持ったおばさんが現われて、なんとなくデモ行進が始まった。
「保護釣魚島」(釣魚島を守れ)、「日本人滾出釣魚島」(日本人は釣魚島から出て行け)などと書かれた小型横断幕を掲げ、「打倒小日本」などとシュプレヒコールを上げながら歩く。道路脇では特別警察の隊員が警戒にあたっていたが、デモ参加者が「笑って」とカメラを向けると、若い隊員もニコリ。そのカメラの紐に「Nikon」の文字。
30分ほどで広場に到着した。いよいよ、反日デモのクライマックス、「日の丸燃やし」だ。
「ウォー!」と気勢を上げた丸刈りの男が日の丸とライターを取り出すと群衆のテンションは一気に最高潮……のはずだったが、取り出した日の丸がとにかくちっちゃい。群衆がワッと集まると、燃やしているところが見えない。
人垣をかきわけて群衆の中心部まで近づいていくと、丸刈り男が困惑顔。日の丸がナイロン製だからか、火がつかないのだ。これには周囲も失笑だ。その不慣れな感じから察するに、「一度やってみたかった」のだろう。
見かねた周囲の人間がポケットティッシュを寄せ集め、どうにか点火。ちょっと焦がしただけだったが、男は安堵の表情を浮かべた。
午前10時。再びデモ隊は市街地に向かって行進を開始した。プラカードの種類も増えていて、なかにはなぜか「抵制日貨 従AV女優蒼井空開始」(日本製品のボイコットはAV女優「蒼井そら」のボイコットから始めよう)を掲げる若い男も。はたして「言い出しっぺ」はガマンできるのか。
続いて、「市政府! 市政府!」の声を上げて市政府の建物に向かう。到着すると「領導出来」(市長出てこい)、「政府表態」(政府は態度をはっきり示せ)と叫びだした。記者の近くにいた若い女の子は、「政府表態! 政府変態!」と叫びながら大笑い。変態は日本と同じ意味。表態(ビャオタイ)と変態(ビェンタイ)は発音が似ているため、どさくさまぎれに政府に悪態をついて楽しんでいるようだ。
そうこうしているうちに、時刻は昼の12時。みんな「じゃあ、メシ食いにいくか」と口々にいいながら人が去っていき、デモは自然解散。
これが、「反日」に燃える中国人の姿でした。
※週刊ポスト2012年9月14日号