今はなき昭和の野球場をたどるこのコーナー。レトロ球場のなかでも、特に“味わい深かった”のが関西のパ・リーグ球場だ。閑古鳥の鳴くスタンドでよく通る濁声のヤジ、老朽化の進む球場で生まれたウソのような伝説――。昭和後期、長く近鉄でプレーした金村義明氏が“球場のヤジ”の思い出を語る。
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まず関西の球場で挙げられるのはヤジですね。総じてヤジがすごかったのですが、満員の甲子園と違って、お客さんの少なかったパの3球場ではよくヤジが通っていました。特徴で分けるならば、笑いを誘うのは大阪球場、言葉が汚い「河内弁」の藤井寺球場、一番上品なのが西宮球場でした。
大阪球場のヤジは、プレーしていてもつい笑ってしまいましたね。打席に立つ選手に「プロ野球選手がクーラーをローンで買うな」とか、「谷六(谷町六丁目)のホテル街をウロウロしとったらアカンぞ」とか。ホンマに「どこで見てんの?」というほどの、個人情報の暴露大会でした(笑い)。
あとはヤジが合唱になる。「立てばシャクヤク、座れば牡丹、歩く姿はボケの花。アホ、アホ、アホの加藤~」とか、皆がやりだすんで参りました(笑い)。南海ファンは、選手を尾行してヤジのネタにしてやろうという人ばかりなので、大阪球場で試合が終わると、隠れながら晩飯を食いに行ったものです。
我が近鉄、藤井寺球場のファンは言葉が汚いので有名でした。河内弁は一人称が「ワイ」で二人称が「ワレ」。凡退しようものなら、「ワレ、しばくぞ」ですからね。余談ですが、このせいで僕の週刊誌のコメントが「ワイ」とか「ワレ」にされました。兵庫・宝塚で上品に育った、18歳の少年は傷つきましたよ(笑い)。
その兵庫にあった西宮球場は、声のかすれた阪急ファンの八百屋のおっちゃんが大声を出していましたが、内容は上品。兵庫は僕の地元なので、阪急戦でも「金村君だけは頑張りや~」と励ましてもらいました。おかげでサイクルヒットを打ったり、西宮球場では一流選手並みの成績を残せました(笑い)。
※週刊ポスト2012年9月14日号