国内

日本映画全盛期 役者は7~8本掛け持ちして何の作品か知らず

 日本映画は1955年ころが絶頂期で、東映は年間130本つくり、全国には7457のスクリーンがあった。〈5万回斬られた男〉と尊称されている福本清三氏(69)は時代劇の余人なき証言者である。作家の山藤章一郎氏がリポートする。

 * * *
「『どアホ、行けえ。突っ込めえ。なんでもええから行けぇ』。監督さんの絶叫です。主人を駕籠にかついで、私、走りますのや。重たいんですわ。しょうもない。全速力で細道走っても、間に合わん。『こらっ、田んぼに飛びこめ、田んぼ走れ』泥の中です。走れん。『急がんかい』無茶いいますわ。『行けんのを行くんが映画じゃ』。工藤栄一いう監督さんでね」

〈5万回斬られた男〉と尊称されている福本清三氏(69)は時代劇の余人なき証言者である。15歳で東映京都撮影所の大部屋俳優となり、斬られ役以外に、物乞い、死体、なんでもやった。

「殺陣のうまい先輩が斬られる。池に落ちる。先輩はまだまだ剣戟シーンで動きまわらないかん。そんなとき出番ですわ。『フク、行けっ』はいっ。池に顔突っ込んでぷくぷく浮く死体です。情けない。だいたいこんなシーンは、闇討ちとか、夜の人通りのない池のはた。冬や、あんた。寒い。されど、口にせん。はいっ、また死体やらしてくださいっ」

 エジソンが発明し、改良された世界初の複合映写機が神戸に上陸して11年後、マキノ省三監督『本能寺合戦』が製作された。

 これが日本初の本格時代劇だった。爾来ほぼ100年、太秦を中心に次々と量産された。現在56~57歳ほどの人が誕生した1955年ころが絶頂期で、東映は年間130本つくり、全国には7457のスクリーンがあった。

 福本氏の回想。

「大部屋に4、500人いました。掲示板に、何百人の名前が毎日チョークで書き込まれて。わし、明日は何やるのや。朝5時バス出発。日雇いみたいなもんやね。

 7、8本同時に掛け持ちして、いわれたらどこでも行く。なんの作品に出てる、そんなことは分からん。『こらっ、バカタレ、家にいぬ間ぁどこにある。そこの廊下に布団敷いて寝れ。早朝ロケじゃ』毎日、戦争です。大部屋俳優のほか、社員、スタッフが1500人ぐらい。歩いとる人はおらん。みんな、走りまわっとったですよ」

※週刊ポスト2012年9月14日号

関連キーワード

トピックス

ショーンK氏が千葉県君津市で講演会を開くという(かずさFM公式サイトより)
《“ショーンK復活”が話題に》リニューアルされたHP上のコンサル実績が300社→720社に倍増…本人が答えた真相「色んなことをやってます」
NEWSポストセブン
依然として将来が不明瞭なままである愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
愛子さま、結婚に立ちはだかる「夫婦別姓反対」の壁 将来の夫が別姓を名乗れないなら結婚はままならない 世論から目を背けて答えを出さない政府への憂悶
女性セブン
28歳で夜の世界に飛び込んだ西山さん
【インタビュー】世界でバズった六本木のコール芸「西山ダディダディ」誕生秘話、“夢がない”脱サラ社員が「軽い気持ち」で始めたバーダンスが人生一変
NEWSポストセブン
最後まで復活を信じていた
《海外メディアでも物議》八代亜紀さん“プライベート写真”付きCD発売がファンの多いブラジルで報道…レコード会社社長は「もう取材は受けられない」
NEWSポストセブン
最後まで復活を信じていた
《海外メディアでも物議》八代亜紀さん“プライベート写真”付きCD発売がファンの多いブラジルで報道…レコード会社社長は「もう取材は受けられない」
NEWSポストセブン
通算勝利数の歴代トップ3(左から小山さん、金田さん、米田さん)
追悼・小山正明さん 金田正一さん、米田哲也さんとの「3人合わせて『1070勝』鼎談」で「投げて強い肩を作れ」と説き、「時代が変わっても野球は変わらない」と強調
NEWSポストセブン
行列に並ぶことを一時ストップさせた公式ショップ(読者提供)
《大阪・関西万博「開幕日」のトラブル》「ハイジはそんなこと望んでいない!」大人気「スイス館」の前で起きた“行列崩壊”の一部始終
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《“イケメン俳優が集まるバー”目撃談》田中圭と永野芽郁が酒席で見せた“2人の信頼関係”「酔った2人がじゃれ合いながらバーの玄関を開けて」
NEWSポストセブン
六代目体制は20年を迎え、七代目への関心も高まる。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
山口組がナンバー2の「若頭」を電撃交代で「七代目体制」に波乱 司忍組長から続く「弘道会出身者が枢要ポスト占める状況」への不満にどう対応するか
NEWSポストセブン
日本館で来場者を迎えるイベントに出席した藤原紀香(時事通信フォト)
《雅子さまを迎えたコンサバなパンツ姿》藤原紀香の万博ファッションは「正統派で完璧すぎる」「あっぱれ。そのまま突き抜けて」とファッションディレクター解説
NEWSポストセブン
ライブ配信中に、東京都・高田馬場の路上で刺され亡くなった佐藤愛里さん(22)。事件前後に流れ続けた映像は、犯行の生々しい一幕をとらえていた(友人提供)
《22歳女性ライバー最上あいさん刺殺》「葬式もお別れ会もなく…」友人が語る“事件後の悲劇”「イベントさえなければ、まだ生きていたのかな」
NEWSポストセブン
永野芽郁
《永野芽郁、田中圭とテキーラの夜》「隣に座って親しげに耳打ち」目撃されていた都内バーでの「仲間飲み」、懸念されていた「近すぎる距離感」
NEWSポストセブン
18年間ワキ毛を生やし続けるグラドル・しーちゃん
「女性のムダ毛処理って必要ですか?」18年間ワキ毛を生やし続けるグラドル・しーちゃん(40)が語った“剃らない選択”のきっかけ
NEWSポストセブン