『メルマガNEWSポストセブン』では、ビートたけし、櫻井よしこ、森永卓郎、勝谷誠彦、吉田豪、山田美保子といった様々なジャンルで活躍する論客が、毎号書き下ろしで時事批評を展開する。ここでは現在配信中の29号より「吉田豪の今週のオピニオン」の一部を公開する。
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世界的なカウンターテナーとして活躍し、ジブリ映画『もののけ姫』の主題歌のヒットで一躍時の人となった米良美一がいま、バラエティー番組で躍動している。お笑い芸人たちと共に嬉々としてはしゃぐ姿を誰が想像しただろうか。あのプライドの高い米良に何があったのか。障害、恋愛、スキャンダル…。プロインタビュアー・吉田豪の前ですべてを語った。
──僕、米良さんに初めてお会いしたときに『天使の声~生きながら生まれ変わる』っていう本がすごい良かったって伝えたら、「ありがとうございます。でも、いまならもっと書けますよ」とか言われて。
米良:いやいやいや、もっと書けるというか、僕はここまで人として、ホントにややこしい、健康体の方が乗り越えてこられた忍耐とか我慢とか、そういうのは僕は全然ないまま生きてきたんですけど(笑)。人が経験してない痛みとか苦しみとか、そういうものはたくさん子供時代に経験してるわけじゃないですか。それがいいほうに作用することももちろんあるとは思うんですけど、やっぱりマイナスに作用することもたくさんあって。
今、ようやく私も気づいてきて。そういう意味で、この頃には書けなかった言葉がいまだったらもっと違う言葉で書ける、違うことを伝えられる。いまこれを読むと、やっぱりまだかなりの量で世間や自分以外のものに責任を押しつけたり、何かのせいにしてたり、要するに原因を自分以外のものにしてるところが多分に見られるので。ただ、吉田さんが非常に好意的に言ってくださってるので。
──カミングアウトの第一歩としておもしろかったですよ。
米良:ただ、これがなかなか言えなくて。やっぱり『もののけ姫』で世に出させていただいたんですけど。
──それ以前の話をまず封印しなきゃいけなくなったわけですよね。身体の障害的なこともそうだし、そういう学校に通っていたこともそうだし。
米良:そうですね、学校のこととかホントに、名前が世の中に出たとき故郷に帰って…。
──故郷に錦を飾らなきゃいけないときに。
米良:飾りたいんだけど、必ずそこで 「学校どこだったっけ?」とか、たとえば芸能界の人とか、同じ宮崎出身の人とかに聞かれるわけじゃないですか。それを結局、自分で受け入れてないから、はぐらかすほうにエネルギーを使ったりして。だから地獄ですよね、自分の中では。
──スター的な扱いをされてても、常に隙間風が吹いていて。みんな、なんの悪意もなく無邪気に聞いてくるわけですよね。
米良:そう。ただ私がすごくマイナスに取るわけですよね。私のフィルターがそうなっちゃってるから。そういう経験をしたことがない方にとっては、そんなにそれが惨めなことだとか、蔑視的な意味で聞いてるわけじゃないっていまはわかるんですけど、全部私がそういうふうにとらえてしまって。
──印象的なのは、『もののけ姫』でヒットしたあとに、客席から「もののけ!」って声が飛んだとき、「見抜かれた!」と思ったっていう。絶対そんな意図は持ってないはずなのに。
米良:全然持ってないですよ。どっしりできていない自分が怖かったんでしょうね。「これが自分なんだ」って言えればよかったんですけど。
■撮影/林鉱輝