8月29日、内閣府の有識者会議で発表された巨大地震・南海トラフ地震の被害想定は、これまでの私たちの想像をはるかに超えた衝撃的なデータだった。武蔵野学院大学の島村英紀特任教授(地震学)がこのデータについて解説する。
「南海トラフ地震とは、静岡県沖から四国・九州沖にかけて伸びる浅い海溝(トラフ)で発生する巨大地震を指します。想定震源域によって、東から東海地震、東南海地震、南海地震と名づけられていますが、このどれか1つでも発生してしまうと、連動して他の2つの震源域でも地震が起きるとされ、最も被害が大きいといわれている地震です」
国が2003年に示した被害想定では、死者は2万5000人。これは1707年(宝永4年)に実際に起きた南海トラフ地震を参考にマグニチュード(M)8.6と想定し、算出されたものだった。
しかし、「想定外」の規模となった東日本大震災の教訓と、最新の地下構造の研究結果を踏まえ、マグニチュードを9.1と上方修正。そうして今回、新たに発表された被害想定は、東日本大震災のおよそ17倍、死者32万3000人という数値だった。
これは2004年に起きたスマトラ島沖地震の死者行方不明者数約28万人を上回る人類史上例を見ない最悪のシナリオだ。
「プレート境界型地震」と呼ばれる、海溝で発生する地震は大きな津波を引き起こす。南海トラフ地震は、まさにそれだ。同タイプの東日本大震災がそうであったように、今回の想定でも死者数の70%以上の23万人が津波によって命を落とすと指摘されている。名古屋大学大学院・川崎浩司准教授(津波工学)が説明する。
「津波の破壊力は見た目よりもはるかに強い。30cmの高さでも、大人でも立っていることが難しく、流されてしまうほどの力があります。50cmを超えると、何かにしがみついていないと立っていられないレベルになり、1mの高さの津波に巻き込まれてしまうと死亡率100%といわれています」
今回の被害想定で特に危険が指摘されているのが、震源地に近く、10mを超える津波が想定されている静岡県だ。
「静岡市には海と山に挟まれる形で、幹線道路と高速道路、新幹線が並走しているところがあります。想定のような10mを超える津波が発生した場合、日本が東西に分断されてしまうことになるかもしれません。また、浜岡原発にも19mもの大きな津波が押し寄せることが想定されていますが、これは今建設中の防潮堤よりも1m高い数字。現在は稼働停止中ですが、核燃料棒はそのまま置かれていますから、第2のフクシマにもなりかねません」(前出・島村特任教授)
しかし、危険な場所は静岡県だけではない。三重県の志摩市や高知県の黒潮町は、沿岸部が小さな湾になっているため、津波が高くなりやすく、実に8階建ての建物に相当する25m超の津波が想定されているのだ。
※女性セブン2012年9月20日号