【書評】『オーディション社会 韓国』(佐藤大介/新潮新書/735円)
【評者】柴口育子(フリーライター)
K-POP好きなら韓国のオーディションの厳しさはご存じだろう。何千人もの中からオーディションで選ばれてプロダクションの練習生になり、何年間も1日10時間以上レッスンに励み、ようやくデビューするグループのメンバーに入れても、最後の最後に落とされることもある。 BIGBANGのデビュー直前に外されて、幻の6人目のBBになってしまったチャン・ヒョンスンのように。
彼はBEASTのメンバーとして蘇れたからいいようなものの、そのまま堕ちていってしまう若者も少なくない。それでも、今、韓国ではテレビのオーディション番組が大人気なのである。
この本は韓流ブームで韓国を訪れる日本人観光客の多くが韓国に対して「きらびやかさ」と「美味しさ」と「活発さ」というイメージを抱いていることに、ちょっと待った~、そんなに甘いもんやおまへんでとストップをかける。そして、オーディション番組をきっかけに、 韓国の競争社会の厳しい現実と、そこから生み出される格差の実態を明かしている。
韓国社会では学歴、海外経験、資格、職業、財産、家柄、人脈、容姿などの要素(スペック)が、その人の価値を決めていく。だから、いい大学、ひいてはいい会社に入るために子供のころからいくつもの塾に通い、海外留学し、就職のために男女を問わず整形手術を受けたりするが、どれも金持ちほど有利なので、貧乏人が這い上がれる余地は少ない。
たとえさまざまな競争を勝ち抜いて、一流会社に入れたとしても、そこには過酷な出世競争が待っている。どこかで競争に負けて道を外れると敗者復活は難しい。だから、老人の自殺率は上がる一方であるetc.。噂に聞く韓国の負の状況をインタビューとデータで裏付けているから胸に迫る。下層階級から成り上がった李明博大統領があがいているのも堕ちたくない一心なのだ。
著者は、2009年から2年間ソウル特派員を務めた共同通信の記者。華やかさしか見ない観光客にはわからない、赴任中に感じた「生きづらさ」に焦点を当てたが、それは日本とも共通点が多いからだという。
韓流スターへの憧れが高じて、な~んにも知らずに「韓国の男性と結婚した~い!」なんてノー天気に思っている女子には、まずこれを読むことをお勧めする。
※女性セブン2012年9月20日号