東日本大震災の死亡者数1万5867人──。その9割が直接的な地震によるものではなく津波による被害だった。国や自治体はこれまで地震対策は進めても、津波に対しては無防備だったことが証明されたわけだが、いまだその教訓が活かされていない。災害時に救援・復旧の司令塔となる全国の「防災拠点」の多くが、今も海のそばに造られ続けているのだ。
写真で掲載した東京湾臨海部基幹的広域防災拠点(有明の丘地区)も臨海部の埋め立て地にある。ふだんは公園として使われるが、首都直下地震のような大災害が発生すると、公園は閉鎖され、本部棟内に国の緊急災害現地対策本部が設置され、そこが被災状況を収集し、復旧、救援活動の指揮を行なう。そうした重要な機能を担う本部棟は東京湾から600メートル、海抜8メートル、建物の高さ10メートル。
防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が警鐘を鳴らす。
「仮に本部棟が津波被害や液状化被害から無事でも、防災拠点と周囲の土地を結ぶ何本かの橋が破壊されれば、復旧活動も救援活動もままなりせん」
さらに有明の丘は、そもそも施設の存在理由自体さえ希薄だ。
大災害時には、首相官邸地下に緊急災害対策本部が置かれ、被災地に緊急災害“現地”対策本部が置かれる。しかし、首都直下地震が起きた場合、まさに首都圏が被災地なので、首相官邸地下がその2つの対策本部を兼ねるのが当然合理的であり、有明の丘に現地対策本部が設置される意味はない。
本誌の取材に内閣府防災担当は「有明の丘は被災地により近いところで被災状況をより迅速に集約できる」と説明するが、わずか8キロメートル程度しか離れていない首相官邸も有明の丘も同じ「現地」のはずだ。
渡辺氏によれば、有明の丘の埋め立て地は、バブル崩壊後なかなか用途が見つからなかった。そんな時、2001年に国が基幹的広域防災拠点を整備することを決め、“これ幸い”とばかりにこの埋め立て地が使われることになった、という経緯がある。
同様に、全国の広域防災拠点、基幹的広域防災拠点の中には海や湾から至近距離のものが多い。
「必要な用地面積が広いので(数十ヘクタール)、市街地に土地を確保することが難しく、海沿いの埋め立て地が選ばれてしまうことが多い」(渡辺氏)
防災拠点に相応しい土地を探した結果、選ばれたのではなく、用途に困っていた土地にあとから防災機能をつけたのだ。本末転倒である。どの防災拠点も海上運送が可能であることを利点にあげるが、それもあとづけの理屈の面が強い。前出・渡辺氏が話す。
「今ある防災拠点はいずれも、津波被害がこれほど大きいとは想定されていなかった東日本大震災前に整備されたもの。根本的に防災拠点のあり方を見直すべきです」
いざという時、機能しない恐れのある危ない防災拠点。こんなことで国民の命は守れるのか。
撮影■太田真三
※週刊ポスト2012年9月14日号