村木厚子・元厚労省局長(現在は内閣府政策統括官)の冤罪事件(※)や、小沢一郎氏の政治資金問題での証拠改竄や調書捏造によって、検察の威信は地に墜ちた。
そこからの出直しを掲げて、7月に検事総長、次長検事、東京高検検事長らの主要人事が一斉刷新され、8月には郵便不正事件での証拠改竄が問題となった大阪地検特捜部も新部長に交代となった。
だがその一方で、小沢氏の元秘書の捜査報告書を捏造した元東京地検特捜部の田代政弘氏は不起訴とされ、「減給処分」の末に自主退職で済ませている(現在、市民団体が検察審査会に不起訴処分の不服申し立て中)。身内に甘い体質は、何も変わっていない。
そうした検察の姿勢を端的に示す資料を入手した。最高検、全国の高検、地検全59か所に対し、過去3年分(2009~11年度)の「懲戒処分・内部処分」、つまりは検察職員による不祥事を記した文書を情報公開請求したところ、請求から約2か月後、全国の検察から開示文書が続々と送られてきた。その数、3年間で懲戒処分43件、内部処分309件に上った。
そこで、この350件超の不祥事のうち、特筆すべきを紹介しよう。案件は犯罪行為から軽微な仕事上のミスまで様々だが、共通するのは全国紙やブロック紙、地方紙を含め、ほとんどマスコミで報じられていないという点である。検察と司法記者クラブにより闇に葬られていた事件には、どのようなものがあるのか。
まず比較的重い懲戒案件から見ていく。国家公務員の懲戒処分は、重い順に免職、停職、減給、戒告の4種類。人事院資料によると、それぞれの定義は、免職は退職手当などが支給されない形の身分剥奪、停職は1年以下の職務停止、減給は1年以下にわたって5分の1以下の月給減、戒告は「その責任を確認し、将来を戒めるもの」で、この場合も給与などの減額を伴う。
懲戒処分には、痴漢などの性犯罪が目に付く。たとえば昨年12月、山口地検で1か月の減給処分となった事件をみてみよう。
〈11年6月10日から同年10月21日までの間、■■飲食店等において、■■触るなどした。同年7月4日及び同月6日、■■飲食店等において■■触るなどした。同月4日、■■飲食店において■■触った。同年9月2日、■■飲食店において、■■触った〉
このように店名や被害女性は黒塗りされているが、要はこの検事、いろいろな店でひたすら“お触り”を繰り返していた(被害者が同僚女性なのか一般女性なのかは不明)。
当時の各紙紙面を見ると、地方紙を含めマスコミは一切これを報じていない。
懲戒処分については、人事院が公表指針を定めている。同指針は、各省庁が公表する原則として、「職務上の行為による全ての懲戒処分」と「職務外の行為による免職又は停職」を挙げている。裏を返すと、「職務外の行為」で処分された場合、免職・停職以外の懲戒なら公表しなくていい、ということになる。だから、減給処分なら公表しなくて済むわけである。
ところが同じ人事院の「懲戒処分の指針について」では、痴漢行為やセクハラについては、悪質な場合は免職または停職という重い処分が想定されている。この職員が幾度もセクハラ行為を繰り返しながら1か月の減給で済んだ背景には、「公表したくない」という地検側の事情もあったのではないか。山口地検からの回答はなかった。
※郵便割引制度を悪用したとして、大阪地検特捜部が2009年、広告会社幹部らを摘発。捜査の過程で、偽の証明書が厚生労働省から発行されていたことが発覚し、村木厚子・同省元局長らを逮捕したが、冤罪だった。裁判で大阪地検が証拠品のフロッピー内の文書を改竄したことが明らかになっている
●佐々木奎一(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2012年9月14日号