どうやら戦う前から負けた、といわざるをえないのが実態のようだ。WBC参加に至る交渉の経緯について、メジャーリーグに詳しいスポーツジャーナリスト・古内義明氏が解説する。
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まさに急転直下の展開だった。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の不参加を決議していた日本プロ野球選手会が一転して参加表明すると、そのニュースは日本中を駆け巡った。
一方、アメリカでは、ロイターやAPなどの通信社が打電するのみの扱いで、大手新聞社やスポーツ専門サイトが大きく、また独自の切り口で扱ったのは皆無。WBCを巡る報道にも日米の温度差は、依然として存在しているのが現状だ。
WBCはMLBとMLB選手会が設立したWBCインクが主催社だ。サッカーのワールドカップとの最大の違いは、このイベントが招待試合制をとっている点だ。第3回大会に際して、メジャー側は、日本プロ野球機構(NPB)が参加表明している事実を重視し、NPBと選手会の内部分裂に関しては、「内輪もめ」と一蹴。「たとえ日本が不参加でも、WBCは通常開催する」との見解だった。
そもそも、選手会の怒りの矛先は、WBCの利益配分についてだった。日本からのスポンサー収入が7割を占めるなか、メジャー側が66%で、日本側が13%という不平等な配分の是正を求めていた。だが、今回もWBC側は1ミリも譲歩しておらず、配分比率は変わっていない。
ただ、国際関係委員会の島田利正委員長(日本ハム球団代表)が渡米し、WBCのロゴを伴わない「侍ジャパン」のスポンサー権とライセンシー権に関して、メジャー側が日本の帰属を認めことが突破口となり、選手会は不参加の決議を撤回したのである。
四期連続赤字に苦しむNPBにとって、侍ジャパンの常設化によって得られる新たな収益は喉から手が出るほど欲しい収入源だった。問題はNPB主導で、そのブランド価値を高めるような新規事業を次々に展開できるか、否かだろう。
例えば、代表選のマッチメイク一つにしても、台湾、韓国、キューバあたりと毎回やるわけにいかない。ファンが見たいのは、メジャーリーガーで編成するアメリカ、ドミニカ、ベネズエラ等の強豪国とのしのぎを削る戦いだ。それが実現できなければ、代表を応援する公式スポンサーも費用対効果で納得せず、テレビ局は視聴率がとれず、関連グッズの売り上げにもつながらないだろう。
結局、勝ったのは、選手会でも、NPBでもなく、66%の配分を握るメジャーというのが、正直な結論だ。
WBCはこれまで野球後進国と言われた国々で、メジャーのブランド価値を高める世界戦略の一環に過ぎない。松坂大輔やダルビッシュ有がメジャーのボールパークで活躍すれば、獲得を狙う球団には好都合だし、WBCは選手の見本市という役割も担っている。
今回のように、日本のメディアが毎日「WBC」を連呼し、騒げば騒ぐほど、メジャーが儲かる構図に何ら変わりはなく、海の向こうから彼らの高笑いだけが聞こえてきそうだ。