若者の雇用機会が奪われ、ようやく職にありついても豊かになれないのは、オヤジが既得権を手放さないからだ。人事コンサルタントの城繁幸氏が労働環境を巡る若者世代とオヤジ世代の格差を論じる。
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本来なら、労働組合が若者のために立ち上がらなければならないはずだ。ところが、日本の労組は実質的に経営陣に追従しており、若者の雇用を増やしたり、若者に多い非正規雇用の待遇を改善したりすることより、自分たちの既得権を守ることに汲々としている。労組までがオヤジ世代と若者世代の格差拡大装置になっているのだ。
一般的に、世界の労働組合は職種別、業界別に結成される。それに対して日本では、各労組の連合体として業界ごとの組合、さらに最上部の連合体として連合があるが、実態は企業別組合の寄り合いに過ぎない。しかも、ほとんどの組合には正社員しか加入できない。そのため必然的に、経営側と利害を同じくする「第2人事部」「福利厚生部」と呼ぶに相応しい存在になってしまう。
しかも、労組の多くは会社以上に年功序列が色濃く支配しており、勤続年数の長い組合員が幹部に選抜され、年配者が強い発言権を持つ傾向がある。さらに近年は非正規雇用が増えたことで若い組合員の加入が減り、若者の発言権はますます小さくなっている。
私が以前、ある企業の労組で成果型の人事制度について講演した時、書記長が「断固反対」と発言したのに対し、ある若手社員が「我々は賛成だ」と反論した。しかし結局、多数決で組合としては反対することに決定した。労組では幹部たちの利害が優先され、若者の意見は通りにくいという実例である。
では、オヤジ世代と若者世代の格差を解消するにはどうしたらいいか。
最も根本的な解決法は「金銭解雇」が可能となる法律を作ることである。実は、ドイツもフランスも社員の解雇について日本同様に高いハードルを設けている。ただし、決定的に異なる点がある。それは、社員に一定の賃金を上乗せして支払えば、会社の都合で解雇できる「金銭解雇」が認められていることだ。
日本でもこれが認められれば労働市場が流動化し、若者の雇用は一気に増える。それと同時に、明文化されたルールのもとで柔軟に賃下げできるよう法律を改正し、同一労働・同一賃金を導入することが望ましい。
当然、オヤジ世代は強く反発するだろう。特に現役のオヤジ世代は自分たちも負け組になりつつあるという意識を持っているだけに、既得権を?奪されることへの恐怖感、抵抗感は強い。
しかし、現在、もっとも高賃金の45~55歳の正社員が年間に得ている給与総額はおよそ45兆円にも上る(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をもとに推計)。そのわずか1%、4500億円を削って若者に再分配するだけで、10万人程度の新たな雇用を生むことができる。 そうした人事改革によって企業は活力を取り戻し、生産性を向上させることができるし、若者の経済力が上がれば結婚率も出生率も上昇するなど社会全体に大きなプラスをもたらす。当然、オヤジ世代もそうしたメリットを享受できる。
逆に言えば、そこまで大胆な改革を行なわない限り、日本企業も日本社会も永久に活力を取り戻せない。
※SAPIO2012年9月19日号