観光客を呼び込むための話題づくりに“改名”や、仮想の区を設立する地方自治体が増加。観光地PRの新たな手法として注目を集めている。
その先駆けとなったのは香川県だ。
「香川県はうどん県に改名いたします」――昨年10月、香川県出身の俳優・要潤演じる香川県副知事が、こんな架空の改名を宣言する特設サイトを制作。県の魅力はうどんだけではない、と訴えている。一時はサーバーがダウンするほどアクセスが殺到、今も1日150万件超のアクセスがある人気ぶりだ。
「全国的にも、反響は非常に大きいですね。丸亀市がご当地グルメの骨付鶏を名付けて“骨付鶏市”に、手袋シェア日本一の東かがわ市が“てぶくろ市”に“改名”するなど、県内全体にPRの動きが広がっています」(同県観光振興課・宮武知仁さん)
香川県の成功例をヒントに、こうした動きは他県にも広がった。
8月末には、大分県が「おんせん県」を名乗ってPRを開始。別府・湯布院などの温泉地が知られる大分だが、その源泉数は2位鹿児島の2784と比べて4538という圧倒的な数で、さらに全国の約11%の湧出量を誇るという強みを生かす狙いだ。
「大分には食も自然も豊かであらゆる観光資源がありますが、今までは絞りきれずPRがうまくできていなかったこともあり、温泉をメインに打ち出して、他の観光資源の素晴らしさにも触れていただこうと考えました」(同県観光・地域振興課の渡辺修武さん)
観光資源を冠せずに“PR”しようという自治体も。3月からは広島県が同県出身の芸人・有吉弘行を観光大使に据えて「おしい!広島県」と自虐的な宣伝を展開している。
「広島には宮島の厳島神社、原爆ドーム以外にも、食も含めて魅力的な観光資源がたくさんあるのに、全国にはまだまま知られていなくて“惜しい”よね、というのが主旨です。認知度も上がってきて、観光客誘致にもつながっています」(同県観光課・吉野英城さん)
新たな“区”を設立する自治体も出てきた。福岡県福岡市では8月末、市のホームページ上に仮想の行政区「カワイイ区」の開設を発表。同市について「女性がカワイイ」とよく言われることから、食や文化、歴史などの観光資源を“カワイイ”という切り口でPRしていこうというもの。同県出身のAKB48・篠田麻里子を区長に起用した効果もあり、開設からわずか半日で区民への登録が1万人を突破。高島宗一郎市長は「カワイイは世界語になっている。全国の方に福岡の魅力を発信してほしいです」と語っている。
こうした観光地PRの手法が増えている背景について、観光ジャーナリストの千葉千枝子さんはこう分析する。
「いま観光地では、京都などもともとブランド力のあるところや、平泉など世界遺産登録などで脚光を集める地域などに人気が集中し、それ以外の観光地と二極化が進んでいるのが現状です。ゆるキャラも乱造されたため、新たな観光の目玉を打ち出せない自治体にとってはなかなか差別化を図りづらい。そうした現状を打破するためにも、奇をてらった策として、改名などの動きに至ったのではないでしょうか
香川のうどん県などこれまでの例をみると、知名度向上に一定の効果があるとみていいでしょう。地味なイメージで観光とは無縁と思われる地域が、実は知られざる観光資源を持っているということは、よくあることです。ただ、その地域の特色を知ってもらうためには、名前がシンプルであるほどPRにつなげやすいと考えられます」