病を患ったとき、誰しもが最高の医師にめぐり会いたいと願う。とはいえ、医療の素人に、誰が名医を見極めるのは難しい。そこで、同業者である外科医が選んだ、「神の手(ゴッドハンド)」を持つ天才外科医を紹介する。今回は【泌尿器外科医】である。
前立腺がん手術の後遺症に勃起機能不全(インポテンス)や尿失禁がある。命には代えられないとはいえ、機能を失わないで済む手術を切望する男性患者は多い。そんな気持ちに応えてくれる医師がいる。
東京医科大学病院ロボット手術支援センターの吉岡邦彦教授(泌尿器科兼務)は、機能温存や安全性に優れた最新医療ロボット「ダヴィンチ」を、日本で最初に導入した。
「機能を温存する最先端の治療に取り組んでいます。1996年に始まった腹腔鏡手術は、腹部に小さな穴を開ける傷の小さい手術ですが、出血時の対応や操作の難しさなどが難点です。それを克服したのがダヴィンチです。操作しやすく、出血も少ない上、傷も小さくて済む。腹腔鏡の進化系といっていいでしょう」(吉岡医師)
前立腺は恥骨の真裏にあり、正面から見えないため、開腹手術でも手探りの手術を余儀なくされてきた。手元が狂うと側にある直腸を傷つける可能性がある。そのリスクを減らしたのもダヴィンチだ。ロボットカメラを体内に入れて、3D立体画像を見ながら、8~12ミリの非常に小さいロボット鉗子などを動かして手術を行なう。これまで見られなかった手術部位を直視下でみることができるため、安全性も格段に高まった。
米国では前立腺手術の85%がダヴィンチによるもの。日本では今年4月から「ダヴィンチ手術」が保険適用となり、9月時点では全国60か所で導入される予定だ。
前立腺肥大症の治療で有名なのが埼玉医科大学病院泌尿器科の朝倉博孝教授だ。前立腺を温存する治療を心がけ、逆行性射精(精液が膀胱に流れ込む障害)の予防に力を入れている。
※週刊ポスト2012年9月14日号