日中関係が尖閣諸島問題で揺れているなか、中国軍内部では今年秋に就航するとみられる空母の名前について尖閣諸島の中国名である「釣魚島」にするよう提案があった模様だが、最終的に「湖北」とする方向で落ち着きそうだと香港紙「明報」が伝えた。
この空母は中国が1998年にウクライナから購入した「ワリヤーグ」で、10年以上の歳月をかけて改造し、遼寧省大連港を母港として、昨年8月から10回の試験航海を行なっている。
試験航行で、海軍の主力艦として正式に採用されることが決まっており、今月下旬から10月1日の国慶節(建国記念日)の慶祝行事を機に、就役する見通しだ。
最近、ワリヤーグの甲板には「16」という数字が書かれていることが確認されており、正式デビューに向けた準備だとの見方が強いという。
同紙は「中国の31省市自治区のうち、16というのは湖北省であるため、ワリヤーグは『湖北』と命名される可能性が高い」と報じている。その根拠にひとつとして、同紙は「湖北省は中国の『近代海軍の父』と呼ばれ、在任中、空母建設を強く主張した劉華清・元中央軍事委副主席の故郷だからだ」と指摘している。
劉華清は1930年に人民解放軍の前身の中国工農紅軍に入隊し、国共内戦時には、のちの最高指導者である鄧小平が政治委員を務める第2野戦軍に所属。中華人民共和国成立後は海軍に転じて、ずっと海軍畑を歩んで、海軍の最高指導者である海軍司令員を務めた。
鄧小平の信頼が厚かったことから、その後も制服組トップの中央軍事委員会副主席を務めたり、党最高指導部の党政治局常務委員に選出されるなど、中国軍、とりわけ海軍の近代化に取り組んできた。1997年の第15回党大会で引退し、悠々自適の余生を送っていたが、昨年1月、念願だった空母の就役をみることなく死亡した。
このため、軍内には、空母に劉華清にちなんだ名前をつけるべきだとの意見が多く、劉華清の生まれ故郷の「湖北」とする方向になったという。
空母の名前については、中国軍事科学学会副秘書兼中国戦略文化促進会常務副会長の羅援陸軍少将が今年8月19日、北京で行なわれた「釣魚島討論会」で、尖閣諸島の主権は中国にあることを対外的にも鮮明にするため、「釣魚島」にしようと提案。これを党機関紙「人民日報」系のニュースサイト「人民網」が報じていた。
これに対して、中国軍事学術研究所の李傑研究員が「人民網」で中国初の空母が年内に就役する見通しを明らかにしたうえで、空母の名前については、「人名が付けられる可能性は低く、直轄市(北京市や上海市など)の名前もやや問題がある」として、省の名前が付けられる可能性が高いとの見方を示していた。
仮に、釣魚島という名前がつけられれば、外交問題に発展。さらに、軍が絡んでいることから、軍事的紛争も懸念されるところだっただけに、落ち着くべきところに落ち着いたというところだろうか。