「何かあると困るということで、MRIとCTを撮りました。全部検査が終わって、病名は何かというと、顔面神経麻痺っていうことなんですよ」――そう語る落合博満氏(58)の口許は不自然に左側につり上がり、講演中はお手拭きで口の周りをしきりに拭っていた。
プロ野球選手会が9月4日、第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)への出場を表明した。3連覇へと大きく前進したサムライジャパンだが、その前に「監督選考」という難題が残されている。
すでに11月にはキューバとの強化試合が組まれており、選手選考などの時間を考えれば9月末が監督選びのリミット。水面下では「最有力候補」が絞り込まれたはずだったのだが、いまや監督選出は大混乱に陥っている。その最大の原因となったのが、本誌が8月27日発売号でスクープした、落合氏の健康問題だ。
9月2日、群馬・伊勢崎市で開かれた講演会――。落合氏は報道後、初めて公の場に姿を見せ、冒頭でこう語った。
「8月の終わりに週刊誌に書かれましてね。真実だけをいっておきますよ。救急車を呼んだのは事実です」
本誌スクープとは、WBC監督の最有力候補と目されていた落合氏が、お盆の真っ只中の8月16日、和歌山・太地町にある「落合博満野球記念館」に滞在中に、救急車で隣町の大病院に緊急搬送されたというものだ。顔面麻痺の症状から脳卒中が疑われた。
本誌は搬送された1週間後、記念館の前で顔を覆うほど大きなマスクをつけた落合氏を直撃していた。そのときは「人違い、人違い」と救急車で運ばれたことを否定し、さらには取材に割って入った信子夫人が「救急車? あっ、そ、それ私!」と庇うような発言をしていたのだが、2日の講演会では落合氏自身が本誌スクープが事実だったことをあっさり認めたのである。
そうせざるをえなかったのも当然だ。講演の際には演壇に直立して話すのが常の落合氏が、この日は椅子に座った状態で話し始めた。その口許は大きく左に上がり、顔の下半分が歪んでいる。
滑舌も悪く、「さしすせそ」が「しゃ、しぃ、しゅ、しぇ、しょ」になってしまって聞き取りづらい。歯に衣着せぬ物言いで終始、爆笑の渦につつまれる落合氏の講演だが、この日の聴衆は登壇した落合氏の顔を見て、一瞬、シンと静まりかえった。
続けて落合氏は、緊急搬送に至った経緯についてもこと細かに語った。
「前の日にものを食ってたら、味がしなかったんです。あれッ、おかしいなと思って、そのまま寝て、鏡を見たら、あッ、オレの顔が変わってやがるって」
「お盆だからたいていの病院は休みだろうということで、自分で病院を探して歩くよりも、救急車を呼ぶのが一番いいだろうっていうことになった」
救急車の中では、名前や生年月日をたずねられたことなど救急隊員とのやりとりを明かし、「手を握ってくださいっていうから、その救急隊員の手をひびが入るほど、まだ70キロぐらいある握力でぎゅっと握ってやりましてね」といって会場の笑いを誘う一幕もあった。
※週刊ポスト2012年9月21・28日号