いま、シニア向けビジネスが注目を集めているものの、シニアセグメントをきちんと取り込めているビジネスはまだ少ない。大前研一氏が、シニア向けビジネスで成功する要諦を伝授する。
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中高年・シニア向けのビジネスが注目を集めている。様々な業界で、「シニア限定」のサービスをアピールしたり、「シニア料金」を設定したりして、新たな市場開拓に躍起となっている。だが、シニアセグメントをきちんと取り込めているビジネスは、まだまだ非常に少ないのが現実だ。
日本人の平均寿命は男性80歳、女性86歳だから、リタイア後のセカンドライフの期間は15~20年ほどあるわけで、このセグメントの人口が今後は最も多くなる。ところが日本の場合、政治的・行政的には、シニア市場は介護が必要になってからしか始まらない。
定年退職後、介護を受けるようになるまでの元気なアクティブシニアの期間は“行政の空白地帯”なのである。しかも、政府が年金制度や高年齢者の雇用制度などをくるくると変えるため、これからリタイアする人たちは、いったい何歳まで働けるのか、いつからいくら年金をもらえるのか、よくわからない状態になり、老後のプランが立てられなくなっている。
問題は、日本のシニアたちが、いま持っているお金を使いたがらないことである。戦後の貧しい時代に育っているため、お金を手元に置いておかないと気が済まないのだ。その結果、彼らは平均3000万円以上のお金を残して死んでいく。
この心理をマーケティング的に利用するなら、リバース・モーゲージ(逆抵当融資。持ち家などの資産を担保に融資を受けて老後資金を調達し、死亡した時に担保を処分して借入金を一括返済する仕組み)など、シニアが「お金を使う気になる」ファイナンスの仕掛けが必要となる。
今のところリバース・モーゲージは、住宅ローンの支払いが終わった持ち家を担保にするものしかないが、生命保険を担保にする商品も開発すべきだ。死んだ時に支払われる生命保険を前借りして、旅行や趣味に使えるようにするのである。
これに加えて貯金(借金を差し引いた金額)も供託すれば、多くの人は全部合わせて数千万円の老後資金が確保できるだろう。子供に残す分はゼロになるかもしれないが、人生は死んで成仏するのではなく、生きている間に好きなことを全部やって成仏するべきなのである。
※週刊ポスト2012年9月21・28日号