シャープの行方が注視されている。5000人のリストラ、台湾企業との出資交渉──、現場の若手社員の将来はどうなるのか? 作家の山藤章一郎氏が、シャープの工場がある栃木県矢板市を訪れた。
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〈ハローワーク〉の待ち合い椅子で、つま先を小刻みにゆかに打ちつづけて茶髪が漏らす。
「もうダメだよお。くさくさするさ。ぶん殴って辞めりゃよかった」
高卒、25歳。シャープ正社員。
「子どもんときからの地元最有力企業だからよ。入ったときは誇らしかったさ。ライン作業で液晶テレビやってな。だけど、去年の夏、辞めちくりって。若っけえから、働くとこぐりゃあるべって。どうなっちまったんだと思ってたんさ。したら、会社全体で5000人のリストラっていうべ」
月収19万円。退職金なし。失業保険10万円。栃木県矢板市。人口3万5000。宇都宮と仙台を結ぶ国道4号線沿いのシャープ工場に近いハローワーク。貧乏揺すりをやめない。
「もう、派遣も正社員も年寄りも新入社員も、みんな切っちめえって感じだったさ。会社って傾ぐときはあっという間だぁ。こん周りはよ、ここ10年、年寄りの世話、誰すんだ、東京の大学出たけど、就職がねえでけえってきた。そんな話ばっかだ。そこへシャープがリストラ。クビ。どうなるんだべな、オレら。
こんな国道と田んぼしかねえとこで、踏ん張っててもしょうがねえぞ。やけくそだからよ、新宿2丁目でも行って、オカマになってやるべかって。テレビつくってるより、マツコ・デラックスのほうが、生きていかれるべ」
茶髪は膝に求人情報ファイルを乗せている。ハウス野菜の収穫15万円。配管工17万2000円。精密機械の組み立て13万1000円。老人ホームで調理14万1000円。
――働く場所はいっぱいありそうですが。
「なにいってんだ。資格、雇用期間、年齢、縛りばっかだぞ。ちょっとでも時給がいいのは、先に決まっちまうし、よ。オレみたくお人よしは、田舎じゃ生きていけねえんだ、バカ野郎」
※週刊ポスト2012年9月21・28日号