ベストセラー『がんばらない』の著者で、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、東日本大震災の被災地支援のため、たびたび現地入りしている。その鎌田氏が今回、越後妻有を訪れた。そこで開催されている世界最大規模の現代アートの祭典についてレポートする。
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世界でも有数の豪雪地帯である越後妻有(えちごつまり/新潟県の十日町市と津南町)で講演を行なってきた。実は昨年、講演に呼ばれていたのだが、妻有でいくつもの災害が重なって、延期されていたのだ。中越沖地震など2回の大きな震災。さらに昨年、3月11日の東日本大震災の翌日に起こった長野県北部地震が山の反対側の妻有の人々を襲う。
その上、2010~2011年にかけての大雪。この地の年間平均積雪量は10メートルにも及ぶが、この年の降雪量ばかりは並大抵ではなく、雪による死者を出すなど、地域に住む人々に深刻な被害をもたらした。
そして7月末には新潟県全体が豪雨に見舞われた。それでも妻有の住民たちは自らも被災しながら、東北の人たちのために立ち上がった。3.11で深刻な被害に遭った避難者を地域の共同体の中で受け入れたのだ。そういった事情を現地に着いて初めて僕は知った。温かい人々が暮らす、いい町だと、しみじみ思う。
ここも他の地方の町と一緒で、高齢化率が31.9%と高い。高齢化・過疎化の進む地域で、町では子どもたちの姿も見かけなくなりつつある。
それなのに、町の空気が違う。なんとも元気なのである。町には多くの人があふれていた。過疎化の町がなぜ? 聞いてみると、今回で5回目になる『大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2012』が開催されているからだ、という。
答えを聞いて、今度は、なに、こんな里山の中で現代アート? と不思議に思ったが、3年に1度のこの芸術祭には毎回37万人にも及ぶ人々がやって来るのだという。いまや世界最大規模の現代アートの祭典に成長したのだ、とか。
芸術祭の基本理念は「人間は自然に内包される」というもので、44の国と地域から参加する作家によって、360の作品とプロジェクトが、東京23区より広い里山で展開されていた。
僕たちはこれまで、欧米の近代文明を模倣し、取り入れ、それに依存する形で都市を作ってきた。現代アートだって、だいたいは都市の中に作られた美術館や庭園で見るものだという一般常識のようなものがあった。
しかし、この町は、アート作品を一か所に集中するのではなく、広い地域に作品やプロジェクトを展開させている。里山に現代アートが点在しているのも、なかなか趣があるものだ。この妻有地区を散策していると、おのずと「人間は自然の一部」だと自覚することができる。
芸術祭は9月17日まで。しかし、常設の作品展示もたくさんある。現代アートは難しいと身構えないで、へぎ蕎麦でも食べながら、豊かな自然と人間が共存している地域を見るつもりで出かけてみませんか。
※週刊ポスト2012年9月21・28日号