民衆に貧困を強いながら、独裁者が贅を尽くした生活を送る北朝鮮の象徴的存在が、美女揃いの「キップムジョ(喜ばせ組)」だ。ジャーナリストの惠谷治氏が、お披露目されたばかりの金正恩好みの美女たちを分析する。
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北朝鮮では毎年9月初め、高等中学などを卒業した18歳以上の美少女の中から、「満足組」20名、「幸福組」20名、「律動(歌舞)組」10名のキップムジョ50名を選抜する。
「満足組」の任務は性的サービスであり、スタイルがよく性的魅力がある女性が選抜される。「幸福組」は按摩やマッサージ、指圧などで肉体的な疲労回復を担当。「律動組」は舞踏、歌、楽器演奏などで酒宴を盛り上げる。北朝鮮においてキップムジョに選抜されることは、最大の栄誉とされる。
2002年に脱北した呉英姫氏は、元「律動組」で、旺戴山軽音楽団のダンサーだった。呉英姫証言によれば、旺戴山軽音楽団には「チンダルレ(ツツジの一種)組」「木蓮組」「百日紅組」という3つの舞踏組があり、各組に12人のダンサーがいたという。
金正恩夫妻が観覧した「牡丹峰楽団」の初公演には、楽器演奏者11人と歌手6人が登場したが、いずれ劣らぬ美女揃いだった。ただ、全員が母性を感じさせるタイプの美人で、金正恩の母親コンプレックスが見て取れた。金正恩は21歳の時、愛する母、高英姫を失っている。
韓国紙「中央日報」は昨年8月12日、 北朝鮮戦略情報サービスセンター(NKSIS)の情報として、2002年2月から2009年8月までに党組織指導部幹部5課が選抜したキップムジョ候補者200人余りの中から、90人を金正恩自ら選抜した、と報じた。
金正日は自らも背が低かったからか、選抜基準は165cm以下としたが、金正恩の望む基準は168cm以下だったため、再選抜したものと考えられる。
7月6日の公演は、1部と2部に分かれ、2部ではバイオリニストら4人と歌手は超ミニスカートに着替えて現われ、観衆を驚かせた。牡丹峰楽団にも旺戴山軽音楽団と同じように舞踏組もいるはずだが、今回は残念ながら登場しなかった。
牡丹峰楽団の初公演に満足した金正恩は、「戦勝節に際して公演を行なうように」と指示した。しかし、戦勝節の7月27日に開催されたのは、報道によれば「人民軍協奏団」「勲功国家合唱団」「銀河水管弦楽団」の3つだけで、金正恩の指示は実行されなかった。この事実は、金正恩新体制内部は、まだまだ安定していないことを物語っている。
※SAPIO2012年9月19日号