尖閣諸島の売却問題。9月11日についに国有化されたが、地権者はなぜ、ここに来て売却を決意したのか。それは譲渡から40年が経ち、一民間人が外交問題を孕み始めた島を守り続けることに限界を感じたからだという。
地権者の実弟、栗原弘行氏(65)が語る。
「兄も私も高齢になり、体力面、精神面ともに難しくなってきた。2002年に国と賃貸契約を結んだのも、それが原因でした。契約は2013年3月末までで切れるし、今はいいタイミング。もう役目は果たせたかなとの気持ちがあるのは確かです」
栗原家は、尖閣諸島の地権者を引き継いだときから、「いつかは政府に購入してもらうつもりだった」という。しかし、「幾度となく決断を先送りし、責任を回避しようとする政府の恣意的な行動に振り回されてきた」ことに不信感を持った。
その中で、弘行氏が売却先と考えたのは、「東京都」だった。理由は現都知事・石原慎太郎氏との関係が大きい。
石原氏が弘行氏のもとを訪ねたのは1973年。当時は40代で、自民党若手議員の一人に過ぎなかった。
「大宮の家までいらした政治家は、石原さんが初めてでした。何度お断わりしても、40年間ずっと『領土への強烈な意識』を忘れずに、私たちに連絡をくれたのは石原さんだけ。4月の尖閣購入表明を、降って湧いた話と感じる方もいるかもしれませんが、私たちにとってはずっと継続され行動されてきたことと感じた。その思いは、信頼に足ると考えています」
※週刊ポスト2012年9月21・28日号