自民党総裁選(9月14日告示、26日投開票)の有力候補となっているのが、現幹事長の石原伸晃氏だが、対抗馬の元首相、安倍晋三氏は大阪維新の会とのパイプを誇示して選挙戦に飛び出した。
安倍陣営の河井克行・代議士は、「石原氏は長老の意向通り、総裁になれば民自の大連立に向かう。安倍さんには総選挙後、大連立ではなく、維新を巻き込んだ平成の保守合同を実現してほしい」とライバル意識を燃やした言い方をするが、この人の出馬にはいくらなんでも開いた口がふさがらない。
安倍氏が総理の座をわずか1年で投げ出した過去を国民は忘れてはいない。
安倍政権は就職氷河期に大量に生まれたフリーターなど非正規労働者に職を与える「再チャレンジ」政策を掲げながら、腹痛(潰瘍性大腸炎)退陣によって次の福田内閣では再チャレンジ担当大臣も担当室も廃止され、再チャレに期待した多くの若者は取り残された。自分だけの再チャレンジとは虫がよすぎる。
その安倍陣営は、「議員票では派閥連合をバックにした石原氏が有利」と情勢を分析し、逆転の切り札として期待するのが自民党のもう一人の妖怪、小泉純一郎・元首相の存在。「小泉さんが息子の進次郎を動かして安倍支持を表明すれば流れは有利になる」(安倍支持派)というのだ。
同陣営は、「小泉元総理が維新政治塾の講師になる」と元首相を安倍―維新連合に引き込もうと情報戦を展開しているが、こちらの妖怪は高みの見物で容易に本音を見せようとはしない。
第3の候補の石破氏は領土問題で野田政権の姿勢を舌鋒鋭く追及し、「安保の論客」が売りだ。今年8月の尖閣諸島への中国人上陸事件では強制送還を批判し、「漁民の安全のために国として(桟橋建設を)認めるのは当たり前だ」と実効支配の強化を主張している。
いちいちもっともなのだが、そもそも尖閣諸島に違法に上陸した中国人を最初に強制送還し、臭い物にフタを決め込んだのは小泉内閣で、石破氏は防衛庁長官だった。責任がない野党の立場になると声が大きくなる自民党の「言うだけ番長」である。
※週刊ポスト2012年9月21・28日号