「私には夢がある。北朝鮮にラーメン屋を開業することです」――そう語るのは、金正日の専属料理人として知られる藤本健二氏である。藤本氏が彼の地への思いを明かした。
* * *
まだ金正日ファミリーの専属料理人だった時、食材探しでたびたび訪れていた東京・築地市場に、懇意にしているラーメン屋があります。その北朝鮮支店を出したいと思っています。
最初に言っておきますが私は何も無謀な挑戦をしにいくワケではありません。先日の訪朝で感じたのは、以前と比べ、平壌市民の生活が格段に豊かになっているということ。
いま、平壌の一般家庭の父親の月給は平均して3000ウォン(日本円で約60円)です。ところが市内のレストランに行くと焼き肉が1人前7000~8000ウォンもする。そういった所はもちろん高級店ですが、どこもお客でいっぱいなんですよ。
より庶民的なところで言っても、平壌名物の冷麺が1杯2500ウォン。冷麺屋は必ずしも高級店ではなくて、ごくごく普通の市民が長蛇の列をなしています。
なぜ一食あたり月収同等、もしくは月収以上の外食費を払えるのか。それは皆副業で稼いでいるからです。北には政府が黙認しているヤミ市場がいくつもあって、そこで皆、自由に商売をしている。
さらに美味いものに大金を払ってでも味わってみたいグルメ心も備わっています。例えば北では「ハミガ」という中国産の高級果物が人気です。
味はメロンに似ているのですが、みずみずしいながらもベタついておらず、サクッと食感が上品。これを平壌では1キロあたり8000ウォンで売っていました。ちなみに、日本へ戻り「千疋屋」へ行きましたが売っていませんでしたね。
北朝鮮の人々は冷麺などの麺料理は大好きですから、ラーメンは抵抗なく受け入れられるでしょう。味も日本と同じものを提供します。私が出店する予定の高麗ホテルは平壌一の高級ホテルですから、当然、高級店として営業することになる。ただ冷麺がライバルであることを考えると価格は2000ウォン台に抑えたい。
店では、ラーメン以外の料理も提供するつもりです。私がやるからには、間違いなく食の流行の最先端を行くでしょう。
個人的には大儲けしようとか、店を増やそうとか、そういうことは考えていません。経営が軌道に乗って家族と楽しく暮らしていければそれでいい。
ただ、北朝鮮の人々に、「本当のグルメとは何か」を教えてあげたいですね。そして私の作るラーメンが刺激になって、商売の面白さが根付いたら何よりです。
※週刊ポスト2012年9月21・28日号