【著者に訊け】
大野更紗/著『困ってる人』(ポプラ社/1470円)
山口ミルコ/著『毛のない生活』(ミシマ社/1575円)
今、病魔に襲われた女性が綴った本2冊が話題となっている。その2冊とは、幻冬舎で文芸から芸能まで数々のベストセラーを担当していた山口ミルコさん(現在はフリー)が綴った『毛のない生活』と、上智大学大学院に進学した2008年に自己免疫疾患系の難病を発病した大野更紗さんが綴った『困ってる人』。闘病の日々を綴ったエッセイが大きな反響をよんだ2人の女性が、病に冒されて考えた「これから」のことを語り合った。
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山口:病気の前後で何が一番変わりましたか?
大野:色々ありますが、人間関係観です。家族とか親友とか世にいう「親しい関係」が素晴らしいとは限らないというか、もっと距離があって、お互い意見も立場も全然違うんだけど、同じ場に存在していることは認め合える関係ほど、かけがえのないものはないと今は思う。
山口:友達や家族にしても、一緒に死ぬことはできないものね。
大野:人間は絶対一人では生きられない。でも死ぬ時はみな一人で、その絶対的な孤独に絶望しかけた時、私が支えられたのが友達というより“友人”くらいのドライな人間関係でした。家族とか友達は逆に他人であることを再認識してしまって気持ちが離れて行くんです。それよりは初めから距離があって“ちょっと寂しいくらいの関係”が、実は結構大事なのかなって。
山口:病を抱えた同士でもムラっぽくなる時はある。それを単なる仲間内の慰め合いに終わらせず、一緒に何かを発信していく関係になれれば最高ですね。
大野:同じ幸せなんて求めてない、でも少しでも世の中をよくするために一緒に仕事はできるよねっていう友人を、私もこの本を書いたことで得ることができた。たぶん人も国も困難に直面した時ほど自分に似た人ではなく、エイリアンを探すべきですね。私が今一番会ってみたいのは石原慎太郎都知事。99%話が合わないと思うからこそ、ぜひとも会って意見交換してみたい(笑い)。
山口:私も発病当初は自分の殻に籠った。でも少し落ち着いて見回すと、世の中にはいろんな人がいろんなふうに生きていて、その一人一人の“粒立ち”を大事に出来る社会を一生の仕事として作りたいと思ったんです。それは会社も肩書も関係ない、与えられた命一個分に見合う仕事というか、それこそ大野さんの言う、「一人の人間が普通に生きていく」ための仕事に近い。
大野:孤独ってともすれば絶望と結びついちゃうところが厄介なんですけどね。自分の命一個分をちゃんと生きようと思えればそんなに悪くもない。その一人分の生を維持できるナナメの関係とか第三の組織を、自分の周りに増やしていけたらいいですよね。
山口:そもそも大野さんの世代は会社とか既存の組織に期待していないんでしょうね。私から上の世代の、特に男性は、とかく会社やヒエラルキーのどこに自分がいるかを気にしがちなところがあるけれども。
大野:でも「会社がオレの人生だ」というオジサマも愛嬌があって私は好きですよ。そこまで言い切るのはスゴイし、団塊の世代には団塊の知恵、バブル世代にはバブル世代の知恵がある。それを私たち難病者の知恵も含めて誰でも使えるようにするのが一番ですよね。持続可能な働き方や生き方を求めて切実に“困ってる”点では、歳はもちろん病者も健常者も関係ありませんから。
※週刊ポスト2012年9月21・28日号