野田佳彦首相は消費税増税について、記者会見でこう語った。「未来を搾取するというやり方はもはや通用しない。今回は給付、負担、両方合わせて世代間の公平を図るという理念のもとで法案をまとめさせていただきました」。しかし、現実の政策は明らかに「若者軽視」だ。政治家たちが票のために「老人重視」する現状をジャーナリストの武冨薫氏がレポートする。
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「世代間の公平」と「子孫にツケを残さない」というのが、野田首相の増税を正当化するマジックワードだった。しかし、増税による税収が「高齢世代」と「子育て世代」にどう配分されるかを見るとそれがウソだとわかる。
消費税増税によって得られる13.5兆円のうち、社会保障に回るのは2.7兆円(残りの大部分は国債発行を減らすための財源)。そのうち「子育て支援」は7000億円だが、施設整備などを除くと、待機児童対策の3000億円と放課後児童クラブ拡充の1000億円を合わせて4000億円だけ。
しかも、民自公3党は「震災復興に回す」という理由で「子ども手当」を廃止し、それによって子育て支援の予算は約5000億円削減されたから、差し引きでは増税しても支援は薄くなる。
もっと若い「子育て前」の世代はそもそも一体改革の対象外。それなのに、現在は40歳以上が負担している介護保険料(月額平均約5000円)を20歳から徴収することが検討されるなど、負担対象にはしっかり入っている。
介護保険制度では「介護予防」の名目で元気なお年寄りをバスで施設に送迎して筋力トレーニングまで行なっているが、年金に加えて筋トレ費用まで請求される若者は、もはや高齢者の奴隷か、それが言いすぎなら政治家にカツアゲされるいじめられっ子だろう。
一方の高齢者世代には、低所得者への年金増額をはじめ、年金・医療・介護の3分野で約2兆円が使われる。「世代間の公平」とは逆行する改革であることがわかる。
公務員定数削減でも、担当の岡田克也・副総理は「新規採用4割削減」で若い世代の就職の機会を奪う一方で、逆に給料が高い中高年公務員には定年後の再任用(再雇用)を増やす方針を打ち出している。ここでも「高齢者重視」の発想だ。
民主党厚生労働部門の幹部が本音を打ち明ける。「いまや60歳以上が有権者の4割近くを占めている。若い世代は人口が少ない上に投票に行かないから、投票率を考えると、実質的に60歳以上は有権者の半数近く。お年寄りを怒らせると選挙で勝てない」
※SAPIO2012年9月19日号