中国当局による民衆デモや抗議行動の取り締まりが「ソフト」になってきた。
昨年8月には東北部の遼寧省大連市で石油化学工場の堤防が決壊し、汚染物質の漏洩を恐れた住民が工場移転を求めて大規模デモを組織した。すると市側は、わずか1日で住民に工場移転を約束した。
広東省烏坎村では地元の共産党幹部の不正な土地収用に対する抗議行動が3か月続いたあと、リベラルな思想傾向をもつ汪洋・広東省党委書記が収拾に乗り出し、住民らの言い分を全面的に認めたため抗議行動は昨年12月に終息。その後、選挙を実施し、住民側指導者が村のトップに選出された。これは共産党政権発足後初めてとみられる。
今年7月初めには四川省什ホウ市で金属工場の建設に反対する住民の大規模抗議行動が発生。さらに日系製紙メーカーの排水管建設に抗議した南通市啓東の住民デモに飛び火した。これに対し、両市はプロジェクト停止を決定した。
これらの抗議行動の共通点は「90後」と呼ばれる1990年以後に生まれた若い世代が主導し、インターネットでデモ参加を呼びかけていることだ。とくに四川省と南通市の抗議行動では、数千人の若者が立ち上がり、当局と交渉。彼らは経済成長路線から取り残されてきた貧困層を取り込んで圧力を高めるしたたかな戦略を見せた。
いまや中国内の所得格差は拡大の一途だ。中国政府の公式統計によると、2010年の1人当たり域内総生産(GDP)では中国トップの上海市と最低の甘粛省で4.72倍もの格差がある。
全国で年間所得が1000万元(約1億3000万円)以上の億万長者が100万人を突破したと伝えられるが、年収2300元(約2万9900円)以下の貧困人口も1億2800万人に上っている。中国指導部も、彼らの怒りに迂闊に手を出せなくなっている。
(文/ウィリー・ラム、翻訳・構成/相馬勝)
※SAPIO2012年9月19日号