今やカップラーメンや袋麺は世界的な日常食となったが、なかでも香港で即席麺シェア率60%の日常食といえば「出前一丁(チョッチンヤッテン)」だ。スーパーには、10種類以上の「出前一丁」がズラリと並び(価格は日本円で約40円)、レストランでも出前一丁を店側が調理したラーメンが振る舞われる。
香港人と出前一丁の歴史は古い。1968年に日清が販売した同商品は翌年には香港に輸入されていたという。1984年に現地法人・香港日清を設立。1985年には香港工場も建てられ、香港人の口に合う商品が開発されてきた。同社関係者が明かす。
「日本とは麺の作り方が違います。香港ではラーメンは茹でるのではなく、鍋の中で野菜や肉と一緒にグツグツ煮込むもの。麺の製造工程では長く煮ても伸びないように、特別な植物油が使用されているなどの工夫が施されています」
そのほか激辛豚骨味やXO醤海鮮味など日本ではお目にかかれないメニューが製造されてラインアップは17種類。ビーフンタイプやマカロニタイプまで販売されている。物珍しさから、日本への御土産として買って帰る日本人もいるようだ。今年春先には新味商品が一時売り切れ状態。香港日清がお詫び広告を出す騒動までおきた。
だが、数ある麺ブランドの中からなぜ出前一丁が香港人の心を掴んだのか。人気の一翼を担うのがイメージキャラクターであるオカモチを持った「出前坊や」だ。香港では「清仔」(日清の清と子供を意味する仔)と呼ばれ、ポスターやグッズを街のあちこちで見かけるほど愛されている。大きくプリントされたバスまであった。
海外におけるジャパンブランドの衰退が嘆かれて久しい。しかしそんなこと我関せず街を走り回る清仔の姿は、“メイドインジャパン”の健在ぶりを物語っているかのようだ。
※週刊ポスト2012年9月28日号