料理教室の生徒を多数かかえ、テレビや雑誌に引っ張りだこの“登紀子ばぁば”こと、料理研究家の鈴木登紀子さん(88才)。そんな鈴木さんが、今が旬の秋刀魚の焼き方を教えてくれた。
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今年も、秋刀魚の水揚げが始まりました。日本もようやく秋を迎えます。
刀のようにほっそりと長く、銀色の美しい体をもつ秋刀魚。昔からこれほど、私たち日本人の生活になじみの深い魚はいないのではないでしょうか。これから10月にかけては、脂ものってひとしおのおいしさ。炊きたての新米と秋刀魚の塩焼きという素朴な組み合わせは、「日本人でよかった」としみじみうれしくなりますわね。
さて、旬の秋刀魚をいただくことにいたしましょう。
とにもかくにも、秋刀魚はわたを取らずに塩焼きにし、わたのほろ苦さとともに味わいつくすのが常道です。鮮度のよいものは、“わたがキモ”なのですから。
まず、秋刀魚の皮目をサッと洗ってから、キッチンペーパーなどで水けをよく拭き取ります。それから、尺塩といって、片手に軽く握った塩を、30cmほど上からパラパラと魚に落とします。こうすると魚にまんべんなく塩をふることができ、焼き上がりも美しくなります。尺塩が上手にできるようになったら、ちょっと格好よろしいわよ(笑い)。
秋刀魚をおいしく焼き上げるためには、塩をふるタイミングも大切です。
切り身魚でも一尾の魚でも、通常は「焼く直前に塩をふる」のが基本。しかし、脂のよくのった秋刀魚や鰯、鯖、鰤などは焼く30分前から1時間前と覚えてください。脂が強い魚は塩が効きにくく、焼く直前に塩をしたのでは上手に回らずに、うまみも引き出されないからです。
さあ、いよいよ秋刀魚を焼きますよ。さて、網に置いた秋刀魚はどちらを向いていますかしら?
一尾づけの魚の場合、盛り方を知らずに焼いても意味がありません。必ず左に頭、右に尾、腹を手前に盛るのが日本料理のしきたりです。切り身でしたら皮が向こう側へいくように盛り、あじの開きなどは皮を表にして盛るのが作法ですが、食べやすいように身を上にしてお出ししてもよいでしょう。
これを念頭において、器に盛るときに上になるほう、つまり、秋刀魚一尾でしたら、頭が左になる面を最初に焼きます。これはしっかり覚えておいてくださいね。あとから焼く面は、脂がにじんだり、落ちた脂が燃えてすっきり焼き上がらないのが常だからです。
火加減は昔から「遠火の強火」が鉄則です。炎の先が焼き網につくようではいけません。では中火や弱火でよいかというと、そうはいかないのが焼き魚の妙。あくまで“遠火の強火”にあてるのです。
しかし、ご家庭の引き出し式グリルでは、そういうわけにもいきません。そこで、串などで突いて小さな穴を細かく開けたアルミ箔をかぶせるなどの工夫で、焦げつきを防ぐことができます。いっそ、薄くサラダ油を敷いてフライパンで焼いたり、切り身でしたらオーブンで焼くと、ふっくら焼き上がります。
器に盛りましたら、たっぷりの大根おろしを添え、すだちなどを搾りかけ、あつあつを召しあがれ!
※女性セブン2012年9月27日号