為替市場を左右する最大のファクターはいうまでもなく欧州の債務危機だ。沈静化したと思えば、すぐに再燃を繰り返している。この先、この問題はどのような展開をみせるのか、為替のスペシャリスト、松田トラスト&インベストメント代表の松田哲氏が解説する。
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2012年後半も欧州債務危機による「ユーロ下落」中心の相場が続くだろう。7月26日に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が「ユーロを守るために、あらゆる手段を取る用意がある」と発言したことにより、期待感からユーロが上昇する局面もあったものの、一時的なリバウンドにとどまった。
その後、同総裁が南欧諸国の国債の購入再開に厳しい条件をつけたことで市場に失望感が広がるなど、今夏はドラギ発言に一喜一憂して上下するようなユーロ相場が展開された。
欧州危機に対する根本的な解決策は、いまだ提示されていない。ユーロ存続のためにあらゆる手段を取るというドラギ総裁の言葉のように、今後も時間稼ぎ的な発言によってユーロが反発する局面も想定されるが、大局をみるとユーロは下落していくと判断するしかない。
欧州を債務危機から根本的に救う方法は1つだけしかない。それは、ドイツが債務すべてを引き受けることだ。直ちにカネを出さなくても、欧州の債務危機について「ドイツが国家を挙げて保証する」と決めるだけでもユーロ圏は落ち着きを取り戻すはずである。しかし、保証である以上、実際に巨額の支払いをしなければいけない可能性が残るため、ドイツ国民の感情を考えると、この唯一の根本的解決策にもたどり着けないのが現実だろう。
したがって、ユーロが下げ止まる材料は見当たらない。ユーロ/米ドルは8月現在1.22~1.23米ドル台だが、年内に1ユーロ=1ドルのパリティ(等価)程度までの下げもあり得る。実際のところ、そこまでには届かないと思うが、この方向で進むことを考えれば、一時的にドラギ総裁や欧州諸国の高官らの発言でユーロが反発したとしても、ユーロを売っていくのがユーロ取引に臨む際の一番の正攻法といえる。
ユーロ/ドルが下落して1ユーロ=1ドルへ向かうドル高局面では、ドル/円は上昇していくことになると思うが、ユーロ/ドルの下落スピードのほうがドル/円の上昇スピードよりも激しくなるだろう。
ユーロ/円は、ユーロ/ドルとドル/円の掛け算で決まる。9月中旬現在は1ドル=78円台、1ユーロ=1.22~1.28ドル台、ユーロ/円は98~100円程度で推移している。
この先、対円、対ユーロでドル高が進み、たとえば1ドル=90円、1ユーロ=1ドルになれば、ユーロ/円も90円となり、現在の水準よりも安くなる。このような形でユーロ安円高が進行することが予想される。
それでは、ユーロ/円はどこまで下がるのか。長期トレンドに注目すると、ユーロ/円は2008年に169.95円の史上最高値をつけてから下落に転じ、現在も下落トレンドは続いている。ユーロ/円の当面の下値ターゲットは、歴史的安値の88円と考える。年内は下がっても90円付近と思うが、来年以降、いずれ88円を割れて史上最安値を更新していくのではないか。
※マネーポスト2012年秋号