今の若者が生まれた時から日本は「不景気」だった。世代間の最大の格差は、好景気を知っているか否か、かもしれない。1980年代末から1990年代初めにかけて、日本全土を狂喜乱舞させたバブル期にトレンド・リーダーとして活躍したコラムニストの木村和久氏が当時を振り返る。
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バブルの時代は仕事も面白かった。取材を兼ねて男4人で客船に乗り、シンガポールクルーズに出かけた時のことだ。男だけでつまらないと思っていたら、プールに若いイケイケの女がたくさんいるではないか。客船側が私たちのために40人ほどのコンパニオンをただで招待してくれていたのだ。釣り堀の魚を釣るみたいな感じになってしまったが、そんな楽しみが違和感なく味わえる時代だった。
私にも大手メーカーから講演依頼が舞い込んだ。同じ話を10回喋ってくれという。ギャラは1回50万円。これは楽勝とほくそ笑み、7回ほど同じ話を続けたら、さすがに担当者が「飽きたから違う話に変えてくれ」と言ってきた。1か月で500万円。念願のBMWを購入した。
クリスマスイブも忘れられない。西麻布あたりの高級レストランで女とディナーを食べ、赤坂プリンスホテルに泊まるというのが私のお決まりのコースで、15万円から20万円ぐらい使った。当時、彼女へのプレゼントとして人気が高かったのがティファニーのオープンハートのネックレスだ。お金がない奴も、ガソリンスタンドで油まみれで働いたりして、一番安い2万~3万円のシルバー製を買って贈っていた。
バブル期を振り返ると、私たちのお金の使い方は成金そのもの。お金にモノをいわせ、高いものはいいものだという価値観だけで消費していた。しかしその無駄とも思えるお金の使い方をしたことで、初めてBMWなど外車の優れた性能を知り、ティファニーの素晴らしさを感じ取ることができたとも言える。
今の若いカップルは金がなくてラブホテルにも行けず、マンガ喫茶などで音をたてずにセックスしているという。一通りのことはしてはいるけれど、すべてがミニマム化して、外車の優秀性もティファニーの素晴らしさも知らないのはかわいそうな気がする。
※SAPIO2012年9月19日号