豊かな自然に恵まれた日本では、海の幸、山の幸を凝らした世界一の食文化が育まれてきた。寿司、和牛、日本米など、海外で高く評価される料理・食材は多い。しかし、その日本の食卓が危機に瀕している。鮮魚が食べられなくなり、味噌や豆腐が食卓から消える日がやってくるかもしれない。その背後には、アメリカの政治的意図や中国の拡張、そして“内なる敵”の存在がある。
9月1日のクジラとイルカの追い込み漁解禁を前に、和歌山県太地町には臨時交番が開設された。過激な活動で知られる反捕鯨団体のシーシェパードの妨害が予想されるためだ。しかし、彼らをはじめ、アメリカやオーストラリアからの批判・抗議は説得力がない。
そもそも欧米もクジラを捕っていた。しかも、日本と違い鯨油を取るためだけの目的。火薬を仕込んだ破裂銛(捕鯨銃)をクジラに打ち込んで爆発させ、弱ったところを銛で仕留めるという方法だった。欧米で、「捕鯨が残酷」と言われるのは、自らがかつて行なった捕鯨のイメージが強いからだとされる。その上で、「捕鯨問題については、欧米各国の政治的な意図もある」と指摘するのは東海大学海洋学部教授の山田吉彦氏だ。
「まずあるのは牛肉戦略です。牛肉の生産国であるアメリカとオーストラリアでは、食肉団体が捕鯨に圧力をかけてきました。世界各国で牛肉消費を拡大させ、食文化を欧米に近づけようという政治的意図だと考えられます。また、地球環境問題の国際交渉におけるカードとして反捕鯨を使う意図もある。日本が捕鯨をする“野蛮な国”というレッテルを貼り、その他の交渉も優位に進めようというものです。
実はマグロも同じで、クジラと違って欧米人も食べるのに、国際会議のテーマに挙がると日本のマグロ漁に圧力をかける。これも同じ牛肉戦略と外交カードへ利用する目的と言えます。だからこそ、日本はマグロやクジラがどのくらい食べ物として必要かをしっかり主張しなければならないが、全く対抗できていない」
※SAPIO2012年9月19日号