妊婦の腕から採血するだけで、ダウン症など3種類の染色体異常が99%の確率で判別できる、出生前診断の新型検査が開発された。この検査は、国立成育医療研究センターや昭和大、東大、慈恵医大(いずれも東京)、横浜市大など国内の10施設で導入が検討され、10月から臨床研究が開始されるという。
とはいえ、この新型検査のあり方には、専門家も慎重な姿勢だ。日本産科婦人科学会はすでに、「安易な実施は厳に慎むべき」と緊急声明を発表しているが、日本産科婦人科学会副理事長で、検査導入機関でもある昭和大学医学部の産婦人科学教室、岡井崇主任教授がその理由を説明する。
「この新型検査は採血をするだけですから、医師や看護師なら誰にでもできます。また、今回の報道の反応を見ても、近い将来相当数使われるのは容易に想像できる。しかし出生前診断に関して倫理的にさまざまな考えのあるこの社会で、誰にでもできるからといって野放しにしていいわけはない。それが今回の緊急声明と、私たち学会有志で始めた共同臨床研究の主旨です」
日本ではこれら出生前診断に関して特に規制はなく、検査を受けるかも、その後どうするかも──つまり産むか産まないかについても、最終的には当事者夫婦の選択に任されている。
しかし人工中絶に関しては、「母体保護法」によって妊娠期間が22週未満で、その継続や分娩が「身体的または経済的」に「母体の健康」を害する場合のみ中絶を認められている。つまり実は、障がいを持つなど「胎児の問題」を理由とした中絶は法的には認められていないのだ。豊富な臨床経験を持つ産婦人科医・宋美玄さんは言う。
「仮に今回の新型検査の結果、産まない選択をする人がいたとします。でも日本の母体保護法で胎児要件は中絶条件になっていなくて、あくまでも母親側の経済的な事情や母体の命・健康によって判断されるのです。
もちろんそこは身体的、経済的という部分が拡大解釈され、望まない妊娠や胎児に異常が見つかった場合でも、母親側の事情として、中絶が黙認されている。そうした現状のなかで、“ダウン症だから中絶しなさい”と、短絡的に勧める医師が少なくない現実があります」
※女性セブン2012年9月27日号