緊張関係が続く日韓関係の裏側でなにが起きているのか。共同通信前ソウル特派員で「オーディション社会 韓国」(新潮新書)の著者である佐藤大介氏に「近くて知らなかった韓国」の内情について聞いた。(聞き手=ノンフィクション・ライター神田憲行)
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――現在の緊張状態を韓国の一般市民はどう感じているのでしょうか。
佐藤:韓国旅行を取りやめたり、実際に私にも「ソウルに旅行しても大丈夫か」という問い合わせをしてくる人がいるのですが、反日一色という状況には全くなっていません。李明博大統領の行動に疑問を持っている人も多いし、日本という「国」に対してライバル心はあっても、日本「人」には拒否感はないですよ。
――そうなんですか!?
佐藤:それぐらい日本と韓国の民間交流は成熟しているんですよ。韓国の日本大使館前でいつも「独島(竹島の韓国名)は我々のもの」というプラカードを掲げている名物のおっちゃんがいるんですが、東日本大震災直後、「独島(竹島の韓国名)は我々のもの でも日本は頑張れ」となってました(笑)。繁華街の明洞に日本を応援する日本語のポスターもありました。私個人の体験でも、居酒屋で酔っぱらいに「独島は俺たちの領土だ」と絡まれたときも、店のオヤジが激怒して酔っぱらいをつまみ出しました。
ある牧師が「東日本大震災は天罰」と発言したときは国内から大きな批判が寄せられ、たまたま私が乗ったタクシーの運転手さんからは「韓国人の総意ではない。すまない」と謝られたりしたこともあります。阪神大震災のときと比べて、明らかに日韓関係は進化してきた。しかし政治がそのレベルまで到達していなかった。そのモロさがいま出てしまったと感じます。
――佐藤さんの本を読み、お話を聞いていて、日本も韓国も近いのに知らないことが多いと思いました。
佐藤:なまじ近いからわかったような気持ちになっているから、ちょっと違う点が大きく見える。「もともと違う」という前提にたって相手を見れば、よく理解が深まると思うんですよ。新大久保で在日の方たちは出て行けというデモがありましたが、非常にナンセンスで、いま必要なのは対話を重ねることです。
――新聞などのメディアでは「大統領の竹島上陸」は大きく報道しても、たとえば先ほどの佐藤さんのタクシーの体験のような記事は読んだことがありません。
佐藤:(頷いて)我々メディアがどれだけ自分の言葉で語ってきたかというと、疑問です。その反省を踏まえつつ、私はこれからも日韓関係の報道をしていきたいと思っています。
※プロフィール
佐藤大介(さとう・だいすけ)1972年北海道生まれ。2002年共同通信社入社、2007年韓国・延世大学に社会留学、2009年3月から2011年末までソウル特派員。