JALの再上場は市場関係者や投資家の間で大きな関心事となっているが、今年度はJALに続く再上場の“大型案件”も控えている。有価証券報告書虚偽記載事件で2004年12月に鉄道が上場廃止となった西武ホールディングスである。
「これまで幾度となく再上場の噂が流れては会社側が否定してきたので、本当にできるのか疑問でしたが、今年5月に具体的な幹事証券の名が挙がり、いよいよ上場準備は大詰めの段階に入っている様子です。グループの経営再建は軌道に乗り、収益も安定しているので上場後の株価の動きは期待できます」(証券アナリスト)
確かに西武グループの足元の業績は堅調だ。2012年3月期の連結営業利益は329億円で3期連続の増益。直近の4―6月期決算でも、前年同期比2.5倍の114億円の営業利益を記録した。好調の要因は、ホールディングス傘下のホテル・レジャー・不動産事業という3本柱の安定にある。
「プリンスホテルは過去最大となる500人のリストラでスリム化を図ったことで採算が取れる体質になり、遊園地のとしまえんは今夏の猛暑続きで来場者数は昨年より2割増。不動産部門では西武鉄道沿線の駅ナカ商業施設『Emio(エミオ)』を拡大出店し、店舗から入る賃貸料収入は2014年度に今の2.6倍に引き上げる予定です」(前出のアナリスト)
こうして再上場を果たした暁には、市場からの資金調達も手伝って大型開発が加速すると見られている。「グランドプリンスホテル赤坂(赤プリ)」の跡地に建設が計画されているホテル、オフィス棟、商業施設、住宅棟からなる複合施設は、2016年からの収益化が見込まれている。また、同年には西武鉄道旧池袋本社ビルの建て替えも終わる予定で、大規模な賃貸オフィスビルとして不動産収入の向上が見込まれる。
さらに、品川駅周辺の再開発構想まであると話すのは、経済誌『月刊BOSS』編集長の河野圭祐氏。
「品川駅は新幹線も停まりますし、将来はリニア停車駅の候補になっています。交通の要所と将来性を鑑みて、高輪プリンスなどホテル周辺に大きな国際会議場の誘致場所にしたい思惑があるようです」
満を持して再上場に挑む西武だが、最大の懸念材料は約8000億円もの有利子負債が残っていることだ。銀行出身の後藤高志社長がピーク時に1兆3500億円あった負債をここまで減らした手腕は買われているものの、「鉄道最大手の東急グループでさえ2015年に1兆円を切る予定。分母の小さい西武はさらなる財務体質の改善が求められる」(業界関係者)と、厳しい指摘は多い。
だが、いざ財務基盤が揺らげば、シンボル的資産の切り売りもあり得ない話ではない。
「売却が囁かれながら継続保有した『西武ライオンズ』は、ドーム改装、ファンサービスの充実で観客動員数は好調ですし、『としまえん』だって東京都が広大な公園にしたいと買収に手を挙げている経緯があり、西武にとって打ち出の小槌のような存在。今後の経営次第では、こうした優良資産の売却も100パーセントないとは言い切れないでしょう」(前出・河野氏)
かつての“西武王国”も、再上場を機に「選択と集中」の決断を迫られる場面が増えそうだ。