「電車で2時間もかかる郊外に先祖のお墓があるが、高齢で出向くのが大変だし、将来は墓の引き継ぎ手もいない。自分の死後も考えると自宅付近のお墓に移りたい」(70代女性)
秋の彼岸入り。都内の寺院にはこんな相談が多く寄せられている。そこで、年々需要が高まっているのが「室内墓地」だ。好立地の建物内に仏壇と骨つぼを組み合わせた納骨壇が置かれ、寺が永代供養してくれる。少子高齢化や核家族化が現代の墓事情を大きく変えたといえる。
だが、それだけではないと話すのは、近著に『知っておきたいお葬式Q&A』(小学館)があるライフエンディングコンサルタントの佐々木悦子さん。
「離婚して実家に戻ったら入るお墓がなかったとか、結婚していても夫とは同じお墓に入りたくない、なんてニーズもあります。墓石を構えなくてもよい室内墓地は、そんな人たちにとっても身近で手軽な存在となっているのです」
室内墓地には立地条件や建設スペースによって様々なタイプがある。
■体育館のような広大な屋内霊園に一人ひとりの墓が並んでいる
■ロッカー式で中から遺骨の入った厨子や家名などが彫られた銘板を取り出し、専用スペースで参拝する
■個人データの入ったICカードを専用の差し込み口に入れると正面の扉が開き、30~40秒ほどで厨子と銘板が墓石にセットされた状態で出てくる
ここ数年の主流は、3番目のコンピューター制御により管理された可動収納型の室内墓地。いわば“立体駐車場”のようなイメージで、小さな建物でも平均3000体ほど納骨できるという。それでも、2010年に開園した文京区の「本郷陵苑」が5000区画を完売したように、契約者は後を絶たない。こうした最先端の室内墓地の販売に力を入れているのは、寺院ではなく、仏壇、仏具、墓石などの販売会社である。
「はせがわ、メモリアルオートの大野屋、ニチリョクの大手3社が寺院と連携して室内墓地の建設から販売まで請け負っています。中でもはせがわは、本郷陵苑をはじめ、市原悦子さんをCMに起用した『東京御廟』、そして、新たに新宿駅南口徒歩3分という好立地に、7000基の立体型墓苑も建設予定です」(霊園関係者)
では、増え続ける室内墓地を選ぶ基準はあるのだろうか。そのひとつに永代使用料など維持費の価格面が挙げられる。一般的な外墓地霊園の販売価格は200~250万円程度が相場といわれる中、室内墓地は50万円からある。別途、年間管理費や更新料がかかる霊園が多いが、それでも低価格のメリットを感じている人は多いはず。
しかし、前出の佐々木さんは目先の価格にとらわれない「慎重な室内霊園選び」を呼びかける。
「1体あたり50万円、夫婦で100万円なら外にお墓を買って永代供養してもらったほうが安い場合もありますし、室内墓地の中には骨つぼごと預かってもらえず、他人の遺骨と一緒にされてしまうことも。また、住職の人柄や供養の充実度などいろいろな判断基準があるでしょう。ひどい霊園になると住職すらほとんど来ないところもあります」
さらには、こんな指摘まである。
「室内霊園は遺骨の状態をキープするために、24時間冷暖房が欠かせないなど維持費に莫大なお金がかかります。そのため、建物自体が耐用年数を迎えたときに建て替え費用が残っているのかといった問題も出てくるでしょう」(前出・霊園関係者)
墓地選びは「どこまでこだわるのか」という自分なりの価値観を見い出すことから始めたい。