日本の貿易相手国は1位が中国、2位がアメリカ、3位が韓国である。しかし、この景色が大きく変わる時が近づいているようだ。マレーシアやシンガポールで国家アドバイザーとして東南アジアの成長に貢献した大前研一氏は、「ASEAN諸国との付き合い方は日本の未来にとって極めて重要だ」と指摘する。以下、氏の解説である。
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アジア開発銀行が8月下旬、ミャンマーは今後10年にわたり最大で年8%の経済成長率を維持し、1人当たりGDP(国内総生産)が2030年までに現在の3倍の3000ドル(約24万円)に達する可能性があるという見通しを示した。
ミャンマーに限らず、いま東南アジア諸国は非常にホットで、かつ日本の未来を考える上で極めて重要だ。『SAPIO』7月18日号ではCLMB(カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュ)の現状について触れたが、これに対して大きな反響があったので、今回はCLMB以外のASEAN(東南アジア諸国連合)の現状も詳しく考察する。
CLMBの中で最も有望な国は、冒頭で触れたミャンマーだ。7月18日号でも指摘したように労働者は手先が器用で忍耐力があり、人件費が月45ドル程度と非常に安い。人件費は今後、急速に上がると言われているが、それでもあと10年くらいは労働集約型産業が成り立つだろう。
ベトナムの場合は15年前、私が社外取締役を務めていたスポーツ用品メーカー・ナイキが最初に工場を作った当時の人件費が月50ドルほどで、それが今は100ドルになっている。その後のベトナム進出ブームがあったにもかかわらず、人口が8800万人(15年前は7500万人)いると人件費が2倍になるのに15年かかったわけだ。
それを踏まえれば、人口6200万人のミャンマーも100ドルになるには10年以上かかると思う。また、ミャンマーは鉱物資源があり、農業や観光業も有力だ。仏教国で日本人との相性が良いのはタイと似ている。
バングラデシュ、カンボジア、ラオスも人件費が月50ドル以下なので、今後はミャンマーとともに、中国に代わるローエンドの労働集約型産業の受け皿として位置付けられる。
周知の通り、これまで労働集約型産業は世界の工場・中国に集まっていたが、今や中国の人件費は月200ドル台に高騰し、さらに毎年15%ずつ引き上げて2011―2015年の第12次5か年計画の期間で2倍にする「所得倍増」政策が進められている。
これに音を上げた企業は、中国より人件費の安いベトナムに逃げ出していた。しかし、ベトナムも100ドルに上がってきたため、次の逃避先としてCLMBが注目されているのだ。
このうちミャンマーの次に有力な国は、ASEAN加盟国ではないが人口が1億4200万人と多いバングラデシュである。カンボジアとラオスは人口がそれぞれ1400万人、630万人と少なく、労働力に乏しいのが難点だ。
※SAPIO2012年10月3・10日号