株の取引で大きな利益を出すのは実際には難しいといわれるが、唯一絶対に儲かる方法が事前に内部情報を入手し売買するインサイダー取引だ。
インサイダー情報の入手経路は実に多様だ。
『インサイダー取引で儲ける人たち』(アスペクト刊)の著者・高島ゆう氏が語る。
「私の知人の風俗嬢は20代後半にして4億円の金融資産を持ち、5000万円のマンションを2つ持っていた。車検の手続きが面倒だからと、新車を買ったときには驚きましたね。
その女性は高級SMクラブで女王様をしていて、企業の役員クラス以上のセレブ客が多かった。彼らは常連になると個人的なことをベラベラしゃべるらしく、なかには会社の状況や今後の見通しなど、内部情報が山ほどあったようです。たまたま彼女には株の知識があったため、その情報をもとに株を取引して大儲け。味をしめてからは、上場企業の客とは密接な関係を作って、内部情報を上手に聞き出していた」
こんなケースもある。銀座の高級クラブで、上場企業の役員が一緒に来ていた客に「今年度の純利益は前年度の倍になる」と自慢げに話していた。それを耳にしたホステスは「わー、すごいですねー」とやりすごしたが、帰りの送迎タクシーのなかで「景気がいいところもあるもんだね」と、その話題を口にしたのだ。タクシーの運転手はさっそくその会社の株を購入し、大儲けしたという。
もちろん社長や役員専属の運転手なら、車の中での携帯電話や秘書とのやりとりが筒抜けだし、社長がいつどこでどんな会合に出ていたかもわかる。また、会社では意外な人物が内部情報を知りうることもある。
SESC(証券取引等監視委員会)職員がこんな例を明かす。
「上場企業の守衛を調査したことがあった。守衛なら会社に出入りする人間から経営状態を知れる。金融関係の人間が多く出入りするようなら経営状態が悪化しているか、大きなプロジェクトのための借り入れ交渉をしているか。競合他社の人間の出入りがあれば、合併の可能性も考えられる。その守衛は重要情報公表前に、そういう読みも働かせながら不自然な売買を繰り返していた」
では、どこからインサイダー取引にひっかかり、どこまではセーフなのか。
上場企業の役員や社員、派遣社員が内部情報をもとに自社株の取引をしたらもちろんアウト。彼らから直接情報を受けた知人など「1次情報受領者」も罰せられることになる。また、上場企業の情報を「業務に関して」知りうる立場にある取引会社の役員や社員もアウト。報道機関の社員がインサイダー取引をした場合、それは業務上知り得た情報なので、これも罰せられることになる。
株式公開買い付けの書類の印刷を請け負った印刷会社の社員や先の会社の守衛などは、「業務上で」情報を知り得るため規制の対象だ。
ただし、その境界線は微妙である。SESC幹部によれば、「インサイダー取引は会社関係者から重要事実を知らされた『1次受領者』までが規制の対象で、その先の又聞きである『2次受領者』は規制対象外。また漏洩者に伝える意図がないと受領者にならない」からだ。
例えば、居酒屋で企業幹部が話しているのを隣の席の客がたまたま小耳にはさんだ場合は、「漏洩の意図」がないからセーフになる。先の銀座のホステスの送迎タクシーの運転手は規制の対象外ということになる。
※週刊ポスト2012年10月5日号